第15回亡き妻が「仕方ない」と泣いた理由 耳の聞こえない夫婦が受けた傷

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川村さくら
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 「子どもがいなくても楽しめるように、2人でたくさん旅行に行ったんだ」

 札幌市高齢者住宅で暮らす男性(83)は手話を使って、2018年に79歳で先だった妻との思い出を語り始めた。耳が聞こえない男性は言葉を出さずに、時折、声が漏れた。

 妻はろう学校の同級生だった。職場が互いに近く、よく遊びに来た。積極的な女性だった。「引っ張られて結婚したんだ」。男性はシャツの襟元を前に強くひっぱるしぐさをして笑った。28歳の二人だった。

 数年がたち、妻はしばしば吐いては「おなかが痛い」と訴えた。生理が止まっていた。夫婦は「妊娠した」と思った。男性は仕事を休めなかったため、妻が早く楽になれるようにと、妻の母と兄に病院への同行を頼んだ。入院し、数日後に帰ってきた妻は元気を取り戻していた。が、中絶と不妊の手術を受けた、と告げた。

 怒りがわいた。周りには子育…

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