第1回「余命1カ月」宣告受けた赤ちゃん 抱っこで感じた生きようとする力
長野県松本市に暮らす花岡香織さん(47)は2003年6月、かかりつけの病院にいた。
午前1時半に長男の瑛斗くんを産んでほっとしていた。
初産だったが、陣痛になかなか気づかず、入院したと思ったら、あっという間に生まれた感覚だった。
「朝になったら看護師さんが赤ちゃんを連れてきてくれるかな」
出産直後、わずかな時間に抱っこしただけだった。
「早く息子にゆっくり会いたい」という思いが募った。
けれども、翌日、日が高くなっても、会える気配はまったくなかった。
「どうしたんだろう」
思わぬ転院
次第に不安になっていた時、看護師がようやくベッドに来た。
「赤ちゃん、念のため長野県立こども病院で検査することになりました」
「えっ、どういうことですか」
「念のための検査ですよ」
妊娠している間に、切迫早産の可能性があり、1カ月ほど入院したが、その時には特に異常は認められなかった。
出産後に過ごした部屋は4人部屋で、ほかにも出産したばかりの母親がいた。
赤ちゃんを抱っこして喜ぶ声が筒抜けだった。
「なぜ私だけが……」
孤独と不安が押し寄せてきた。
間仕切りのカーテンを閉め、声をおし殺すようにして泣いた。
瑛斗くんとようやく再会できたのは、こども病院に送り出すために運ばれる途中、廊下で一瞬のことだった。
かつては助からなかった心臓病
長野県立こども病院で、瑛斗…
連載エイトとのぞみ(全5回)
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- 服部尚(はっとり・ひさし)朝日新聞記者
- 福井支局をふり出しに、東京や大阪の科学医療部で長く勤務。原発、エネルギー、環境、医療、医学分野を担当。東日本大震災時は科学医療部デスク。編集委員を経て現職。