ロボットでいれる特別な一杯 一度は諦めたバリスタ、見つけた次の夢
休日の昼下がり、東京・日本橋にあるカフェはカップルや親子連れでにぎわっていた。
店内の奥まったスペース。
コーヒーをいれるのは、ロボットだ。
「こんにちは。テレバリスタのパイロット、藤田美佳子です」
ロボットを操る藤田さんは、約270キロ離れた愛知県内の自宅にいる。50歳。難病で上半身はほとんど動かすことができず、少し動かせる指先で、パソコンのマウスを操る。
一度はあきらめたバリスタ。
「こうして働けていること、お客さんに喜んでもらえていることが、本当に幸せです」
三重県鈴鹿市出身。短大の保育科を卒業後、地元で銀行員になった。
2003年、32歳のときに長女を出産。その数カ月後、夫の転勤で愛知県に引っ越した。全く知らない土地での生活は慣れず、さみしさを感じることも多かった。
「自分のように、居場所のないお母さんって多いんじゃないかな」
気軽に集える場所をつくりたい。保育士の資格を持ち、親子教室で働いた経験もある。親子でくつろげるカフェができないだろうか。
そんなことを考えていたころ、大手カフェで働いていたママ友に、一緒にパートしないかと誘われた。
もともと、コーヒーはたまに飲む程度だった。働くうち、その奥深さにはまった。
同じ産地でも、焙煎(ばいせん)方法など「豆が旅してきた過程」によって味が変わる。
自宅でも毎日コーヒーをいれ、微妙な味の違いを楽しむようになった。
容器を持つ手が震えた
カフェで働き始めて4年ほどたった14年ごろ、体の不調を感じ始めた。
髪がうまく結べず、重いものが持ちづらい。
バリスタの全国大会をめざすようになっていた15年夏の地区大会。ミルクを泡立てる際、容器を持つ手が震えた。ラテをつくる機械の硬いボタンが押せず、審査員に押してもらうと、減点された。全国大会には進めなかった。
しだいに、手だけでなく、肩にも違和感を感じ始めた。
もしかして――。
亡くなった父親は、筋萎縮性…