「見ることは楽しい」99歳の染色家・柚木沙弥郎が語る創作、人生

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聞き手 編集委員・大西若人
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 今年100歳を迎える染織家でアーティストの柚木沙弥郎(ゆのきさみろう)さんは今も、新作に取り組む。「自分で何かをつかんでくる、そういう気持ちがあれば面白い」と生きることを楽しんでいる。

 東京帝国大で美学・美術史を学んでいるときに学徒動員で海軍に配属となり、復員後は岡山県大原美術館に勤務した。そこで柳宗悦が唱えた「民芸」と出あい、染色家の芹沢銈介に師事。女子美術大の教授や学長も務めた。

 センスあふれる型染め作品で人気の高い柚木さんの多彩な表現を紹介する「柚木沙弥郎 life・LIFE」展が30日まで、東京都立川市で開かれている。会場の「PLAY!MUSEUM」(内装設計・手塚建築研究所)の渦巻き状の展示壁を生かした展示は、美しさと楽しさに満ちている。

 今回、染色作品は、1950~60年代のものから2020年のものまで約50点が「布の森」と題されたコーナーに集まる。ほとんどが壁にかけるのではなく天井からつられている。人の顔や鳥を図案化した具象的なものから、幾何学的な抽象表現まで多彩だ。

 さらに絵本原画も多数並ぶ。谷川俊太郎やまどみちおの言葉による絵本の原画が並ぶほか、柚木自身が文も手がけた絵本の原画もある。今回の個展や自身の創作について、柚木さんは悠然と、かつ知的に語った。

         ◇

 ――展示をご覧になって、どう感じていますか。

 「私はね、あんな面白い建物で私の作品を展示してもらって、とても幸せというか、よかったなと思います。私も長く生きましたけれど、その間の作品に道筋が作られている。見る人がそこに引き込まれて、自然に歩いている。子供さんを連れて若いご夫婦なんかがたくさん来ているようですね。皆さん楽しかったって言ってくれているようで、よかったなと思います」

 ――染色の作品は、ほとんどが壁に掛けるのではなく、天井からつられています。

 「布は両面が染まっていますから、片側を見たらまた反対が見られるようになっている。渦巻き状になっている会場ですが、はじめのころは絵本の原画で、その後に私の家にあるいろいろな土地で買い集めたおもちゃやガラクタのようなものが入った戸棚なんかがあって、小さな子供にも楽しい雰囲気ですね。それを見ていくうちに、『布の森』と呼ばれていますが、布がたくさん下がっているところに渦巻きの動線が入り込んでいる。あの建物の良さというのが表れていると思いますよ」

 ――過去の展覧会と比べて、いかがですか?

 「これまでの展覧会は美術館での展覧会が多く、作品を見ることがどうしても主になりがちでしたが、私の作品の場合は、美術の中では工芸品なので、楽しんでいただかないとつまらない。今回は、観賞すると同時に、楽しむ要素が強い展覧会だと思います」

 ――染色の作品は、日本的な感じもありますし、西洋の抽象画のような感じもあります。そのあたり自分の作品はどういう文化に属しているかと考えますか。

 「それは育ちでしょうね。私のおやじは洋画家で、パリの話なんか子供のころしてくれましたし、戦後は大原美術館にいて、西洋美術のことは学びました。日本のことはほとんど知らなかったけれど『民芸』を知ってから、興味を持ちましたね」

 「さらに、ズビネック・セカールという旧チェコスロバキア出身の作家の作品を10年ほど前に見たとき、精神的なものが作品にあることに刺激を受けました」

記事の後半で柚木さんは、今年100歳を迎えるにあたっての思いなどを語ります。

 ――では、この10年ほどは違う考えで作っていらっしゃるということですか。

 「根本的には違いはないけれ…

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