「絵本は電子化になじまない」店主の確信 生まれ変わった町の本屋

中村尚徳
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 4千冊の絵本がびっしりと並んでいる。手にとって眺めているうちに時が経つのも忘れてしまう。1926(大正15)年に創業した栃木県芳賀町祖母井(うばがい)南1丁目の「BOOK FOREST」はそんな店だ。町内唯一の書店が絵本中心に生まれ変わり、今年で10年になる。

 吹き抜けに2階天井まで高さ約7メートルの棚が切り立つ。赤ちゃん向けの絵本のほか、大人も楽しめる約1千冊は階段に沿って並べてある。店主の森敦さん(46)は「絵本は子どもだけのものじゃない。美術的に素晴らしく、心を潤されるものもあるんです」。

 店の起源は曽祖父が創業した「森書店」。当時、約20キロ離れた宇都宮市まで行かなければ書籍は買えなかった、という。周辺に商店が少ないため、衣料など生活必需品も一緒に扱った。やがて屋号を「森百貨店」に変えたが、書籍を主力にすえ続けた。地域の文化発信の役割を担ってきた。

 周辺に大型書店が進出し、ネット通販も登場した。芳賀町の経済は細り続けた。森百貨店を訪れる顧客も減った。雑誌などの定期購読、学校図書・教科書・教材、事業所向け文具類の外商でしのいだ。

 16、17年前、森さんは東京での音楽活動に区切りをつけ、森百貨店の社長を引き継いだ。外商専門に切り替える道もあった。しかし、地域のお客さんとの接点はつなぎ留めたいと思った。

 7年前に他界した先代社長の祖父から「好きにしていいから書店は続けてほしい」と頼まれた。「家業を継ぐなら絵本店はどうだろうか」。妻多佳子さん(43)とおぼろげに温めていた計画を実行に移し、2012年4月に衣替えした。

「絵本なら必ず残っていく」

 活字離れ、書籍の電子化、少子化……。時代の流れは感じていた。それでも絵本の挿絵に音楽と相通じる芸術性を見て取った。「絵本なら電子化になじまない。必ず残っていく」

 飾りたくなるような挿絵の作品を選んで仕入れる。荒井良二さん、ヨシタケシンスケさんら好きな作家は、新刊が出た直後にそろえる。「ぐりとぐら」などの名作、五味太郎さんや県内在住のいわむらかずおさんの作品もある。

 森さんは「豊富な作品がそろっています。目当ての作品が売り切れていても、違った出会いがあるかもしれません」。

 誕生祝いの贈り物として、居間に飾る絵画がわりとして、県内外の様々な人が買っていく。コロナ禍で休止中だが、絵本作家を招いた絵本づくりのワークショップ、読み聞かせ会なども人気を集める。絵本以外の本や文具類も販売する。

 「絵本って余白が多いじゃないですか。そこに魅力があると思うんです。絵を楽しみ、余白で想像が膨らむ。情報があふれ時間に追われがちですが、想像力をかきたて、ほっとする時間をつくってほしいですね」(中村尚徳)