渡哲也さんが見守る昭和レトロな理容店 常連客の引っ越し手伝いも

編集委員・副島英樹
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 大阪メトロ肥後橋駅にほど近い大阪市西区京町堀1丁目のオフィス街。くるくる回る赤白青のサインポールを目印に、通りからビルの奥へ通路を進むと、昭和の香りに出会える。

 ノボル理容室。理容椅子が二つだけの小さな空間は、池田貞夫さん(82)、はる子さん(79)夫婦が切り盛りする。カットははる子さんが、洗髪は貞夫さんがしてくれる。後は世間話。どこか実家に帰ったような懐かしさに包まれる。

 だから常連さんもつくのだろう。広島から、淡路島から、近畿一円から、交通費が散髪代よりかさんでも手土産持参で来てくれる。奈良県に住む車いすの90代男性は先日、娘さんが運転する車で店までやって来た。

 夫婦2人で店を始めて、昨年11月で50年を超えた。今の場所に14年前に移転する前も、すぐそばのビルの1階奥に店があった。

 「隠れ家というか、息抜きの社交場だったんですよ」と貞夫さん。

 近くの会社から社長や従業員たちが、お茶を飲んだり将棋を指したりしに来た。夫婦で子どもたちを背負って仕事場に立つと、お客が子どもの面倒を見てくれた。その人たちが定年後も散髪に来てくれる。

 コロナ禍で遠方から常連客が来られない時期もあった。でも最近は、SNSを見て若い男女も来てくれる。

 はる子さんはさながら「大阪のお母さん」だ。東京から大阪に赴任した若い男性会社員が店に来るようになった。体調が悪いと聞けば病院を紹介し、引っ越しの手伝いにも行った。転勤で東京へ戻る前、男性は感謝の思いを伝えに両親と一緒に店に来てくれた。

 店に入ると、俳優の渡(わたり)哲也さんが写真でほほ笑んでいる。

 渡さんは、はる子さんの妹が東京で営む理容店の常連だった。ノボル理容室が14年前に移転して新装した際、サイン入りの写真を記念に送ってくれた。

 2020年8月のある朝。2人が店に来ると、なぜか写真の額縁が壊れることなく落ちていた。訃報(ふほう)が届いたのはその当日。「さようならを伝えてくれたのかな。ずっと見守ってくれています」とはる子さん。亡くなる20日前、妹の店で髪を整えたばかりだったと後に聞いた。

 最近、夕刊紙の「そこに昭和がある」というシリーズで取りあげられた。若い人たちが「昭和レトロブーム」の流れで訪れてくれているようにも感じる。

 「でも、私たちは変わらずいつものままです」と2人。「120%お客さんに助けられてきました。感謝しかありません」(編集委員・副島英樹)

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 いけだ・さだお はるこ 貞夫さんは奄美大島生まれ。20歳の時に大阪の理容店で住み込みで働き始め、茨城県生まれのはる子さんとは東京での研修中に知り合った。ノボル理容室(06・6441・4472)は日曜・祭日は休み。女性の顔そりも。