最大70センチ潮位上昇 トンガ噴火で津波注意報

武井風花、星乃勇介、原篤司 石橋英昭、三井新、根津弥
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 南太平洋のトンガ諸島で起きた大規模噴火の影響で、宮城県内では16日未明から沿岸15市町に津波注意報が発令された。県のまとめによると、最大70センチの潮位上昇を観測したものの、けが人や建物被害の報告はなかった。各地で避難指示が出て、14市町計111カ所で避難所が設置され、170人以上が避難するなど不安な一夜となった。

 仙台管区気象台によると、県内の沿岸全域への津波注意報は同日午前0時15分に出され、石巻市鮎川で70センチ(午前2時11分)、仙台港で70センチ(午前0時38分)、石巻港で50センチ(午前7時2分)の潮位上昇を観測した。

 注意報が出たのに伴って、県は佐藤達哉復興・危機管理部長を本部長とする警戒本部を設置した。午前7時までに、少なくとも12市町で一時的な開設も含めて計102カ所で避難所を設けたとの報告があった。避難者数はピーク時の午前5時10分で177人だったという。東北電力女川原発に異常はなかった。

 公共交通機関にも影響が出た。仙台空港によると、同空港発着の国内線計13便が欠航。JR東日本仙台支社によると、東北線、仙石線、常磐線、石巻線、仙石東北ラインの一部区間で始発から一時運転を見合わせた。

 列車の運転見合わせの影響で、尚絅学院大学(名取市)では大学入学共通テストを受験する予定だった山元町の男性1人が試験の開始時間に間に合わなかった。同大によると、男性は16日は受験せず、30日の追試験で対応する予定だという。他会場では目立った混乱はなかった。

 沿岸部にある震災伝承施設や集客施設では、臨時休業・休館が相次いだ。

 石巻市の南浜津波復興祈念公園は休園となり、みやぎ東日本大震災津波伝承館も終日休館となった。震災遺構では気仙沼市の伝承館、仙台市若林区の荒浜小学校などが終日休館。荒浜小近くのJRフルーツパーク仙台あらはまも閉園。名取市閖上では日曜恒例のゆりあげ港朝市が中止、市サイクルスポーツセンター、名取トレイルセンターなども休業・休館した。仙台うみの杜(もり)水族館(仙台市宮城野区)は営業したが、一部プログラムを中止した。

 気仙沼市では特産のカキの養殖いかだに被害が出た。離島・大島では、本土との海峡にある養殖いかだが流され、間隔がバラバラに。「復興の架け橋」として3年前にかけられた橋の上から、船を操る仲間と電話でやり取りしていた漁師は「うちもやられた。震災でダメ、コロナでダメ。頑張ってきたのに、またこれ(潮位上昇)だもんな」とため息をついていた。

 カキ養殖業の小松武さん(46)によると、自身の施設は無事だったが、周囲で少なくとも3カ所に被害が出た。東日本大震災では自宅と養殖施設、作業場を失ったが、3年かけて復活し、いまはむき身で年20トンを生産する。「自然は結局、人知が及ばない。いつかはまた来ると覚悟している」

 県内の津波注意報は午後2時に一斉に解除された。

 直後には、石巻市の渡波港付近では、プラスチックのかごなどを積んだ養殖漁師の漁船が次々と沖へ向かった。カキ養殖などの施設が被害を受けていないかが気になるのか、多くの船が速度を上げて水しぶきをあげながら進んだ。(武井風花、星乃勇介、原篤司)

     ◇

 未明の潮位上昇を巡って県内の自治体で対応が分かれた。

 沿岸15市町のうち、南三陸町は避難指示を出さなかった。「震災後にほぼ全町民が高台に移転し、注意報レベルでは避難指示の必要はない」との判断だ。町は防災行政無線やSNSなどで注意報を知らせ、海岸に絶対に近づかないよう呼びかけたという。

 16日午後0時半ごろ、町内の避難所「ベイサイドアリーナ」には男性職員2人が待機していた。観光客の避難なども想定したが、避難者はゼロ。この時点で町内の他の避難所2カ所はすでに閉鎖しており、いずれも避難してきた人はいなかったという。

 県防災推進課によると、内閣府の「避難情報に関するガイドライン」に基づいて、県は市町村向けに避難指示発令のガイドラインを作成。2017年の改訂で、津波注意報が出た段階で避難指示を出すのが原則とした。

 ただ、昨年3月20日の地震で津波注意報が出された際も、気仙沼、南三陸、女川、石巻、東松島、利府の6市町が避難指示を出さず、注意喚起などにとどめた。市町の担当者は「注意報レベルでは避難指示は過剰。避難所開設など職員の態勢をとるのも難しい」などと理由を挙げた。

 地震後、県が各市町にガイドラインに沿うよう理解を求め、5市町は避難基準を改めたが、南三陸町は従来の対応をとっている。

 今回避難指示を出した自治体でも、対象の範囲にばらつきがあった。

 仙台市は具体的な地名を示さず、「海岸や河口付近に避難を指示」とした。名取、岩沼両市は、海岸から約1キロ内陸にある貞山運河より海側の地域に避難を指示。集団移転が済んでおり、対象地域に住むのは岩沼市の約50人のみだ。

 一方、同市南隣の亘理町は海から3~4キロを走る常磐道から海側を、山元町は沿岸の行政区全体に避難指示を出し、計約7千人が対象に。石巻市も昨年3月末に見直した基準に基づき、市中心部や半島部の約2万5800世帯5万3600人に避難指示を出した。

 また気仙沼市では津波注意報が一時、SNSに流せなくなるトラブルがあった。気象庁の情報が届いた時点で自動配信される仕組みだが、ツイッターLINEでの一報は約2時間遅れ。市危機管理課が原因を調べている。

 同課によると、注意報から約15分後に登庁した職員が手動で発信を試みたが、警戒本部の立ち上げや文章の内容確認に時間を要し、結果的に投稿が遅くなったという。この間、防災行政無線から情報は放送しており、市民の問い合わせや苦情はなかったという。

 沿岸自治体は、東日本大震災を経験して津波に警戒心を持つ一方、防潮堤復旧や高台移転が進む。まちの「安全度」が増しているとの認識が行政や住民にある。今回も実際に避難所まで足を運んだ人は多くはなかった。津波注意報時の避難のあり方について、なお議論が必要だ。石橋英昭、三井新、根津弥)