第3回ドストエフスキーは「奴隷の自由」を語った 亀山郁夫さんが探る光

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聞き手 編集委員・塩倉裕
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 社会主義の国・ソビエト連邦が崩壊してから30年が経過しました。ドストエフスキーの小説「カラマーゾフの兄弟」の翻訳で知られるロシア文学者の亀山郁夫さんは当時、ソ連の存続を願っていたといいます。何に希望を見いだしていたのでしょう。じっくり聞きました。

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亀山郁夫さん

1949年生まれ。名古屋外国語大学長。著書「磔のロシア」で大佛次郎賞。訳書「カラマーゾフの兄弟」も話題に。

 ――1917年のロシア革命を経て成立したソビエト社会主義共和国連邦(ソ連)という社会主義国家は、91年12月に崩壊しました。もう30年になります。

 「20世紀のロシアという地域に、幸せな時代はほとんどなかったように思います」

 「第1次世界大戦やロシア革命直後の内戦で百万人単位の人命が奪われたり、百万人規模の人々が餓死する事件が起きたり。スターリンが『社会主義の理想』の名のもとに多くの人を犠牲にしたのも事実ですし、ソ連崩壊の前にはチェルノブイリ原発事故にも見舞われました。第2次大戦の対ナチスドイツ戦では2千万人以上のソ連国民が命を落としてもいます」

「ロシア革命を美化していた」

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10月革命から100年を祝い、共産主義の象徴である赤色の旗やレーニンの肖像画を掲げて行進する共産党支持者ら=2017年11月7日、モスクワ、中川仁樹撮影

 ――亀山さんはソ連を何度も訪問していますね。

 「僕が最初にロシアの土を踏んだのは25歳のとき。ソ連時代の1974年でした。ロシア人がようやく幸せをつかんだ貴重な一時期です」

 「続けて77年までに7回、2週間ずつソ連を訪問したのですが、印象的だったのは人々の笑顔です。経済格差がなく、幸福で平等な質素さが感じられ、西側の世界とは壁で隔てられていましたが、人々は核武装のもとでの平和と安心を享受していました」

 「社会主義は人類が夢見た最高の理想だと思います。社会主義国家であるソ連を生んだ1917年のロシア革命を、僕はかつて美化していました」

 ――どのような点に良さを感じていたのですか。

 「文化や芸術の放つ光に引かれていたからです。革命が進行していった前後のロシアでは、政治的な変革と並行して、マヤコフスキー、エイゼンシュテイン、ショスタコービチらの詩、映画、音楽など、文化的な前衛運動が花開きました。民衆が眠りから覚醒し、新しい芸術が次々に生み出されたのです」

 「しかしやがて、革命が持つ…

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