エヴァ声優ジェーニャ「ソ連は進撃の巨人の壁内」 人生変えたアニメ

聞き手・関根和弘
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 私が住んでいたソ連は、漫画「進撃の巨人」のような世界でした。壁で囲まれた中で生まれた主人公たちが外の世界を全く知らないまま暮らしている。まさに、それです。

 国が情報を統制し、国外の様子を教えない。知らなければ自国以外の世界は存在しないのと同じで、モノや情報がなくても当たり前だったし、ある意味、幸せでした。

 シベリアのノボシビルスクで育ちました。記憶にあるのは、お店の空っぽの陳列棚です。衣類があれば、サイズが合わなくても買う。バナナもめったにお目にかかれず、緑色のバナナを見かけたらすぐに買って食べました。待てば今に黄色く、甘くなる、なんて誰も知りませんでした。

 テレビのチャンネルは二つくらいで「チェブラーシカ」などのソ連アニメを繰り返し見ていました。夜になると、壁に映す家庭用映写機紙芝居をしたものです。

 そんな生活でも、楽しかったです。でも、8歳の時、軍人だった父の転勤で旧チェコスロバキアに1年暮らし、「外の世界」を知りました。なぜこんなに違うのかと疑問が芽生え、「いつかソ連を出て行ってやる」と決意しました。

 ですが、最もつらく、貧しかったのは、私が10歳の時にソ連が「終わった」後でした。食べ物はなく、父の給料も支払われない。周りも同じに貧しく、物々交換をして食いつないだ。国が崩れると人のつながりも、生活もいったん全部崩れると知りました。

 私の人生を変えたのは、海外から一気に入ってきた映画や漫画でした。「美少女戦士セーラームーン」に夢中になり、棒読みのロシア語の吹き替えの合間に聞こえる言葉の響きにひかれて独学で日本語を学び、インターネットでの日本のファンとのつながりが、来日の道を開きました。

 日本に来て、ソ連のよさに気づきました。病院も学校も無料で、文化やスポーツなど教育の質が高かったこと。正義とか、フェアであることを、とても大事にしていたこと。理念は悪くなかったけど形にするのは人間だから、実行不可能だったんでしょう。

 日本には「ソ連好き」の人がいます。軍服や国歌を「かっこいい」といいますが、プロパガンダに力を入れていただけ。こっちは現実を生きてきたわけです。暗くて怖い「おそロシア」と言う人もいますが、大変ななかで、みんな一生懸命生きようとしていました。それはソ連も、ロシアも、日本も一緒です。

 ソ連に感謝していることが一つあります。来日して10年は生活が苦しく、銀行口座に千円しかないこともありました。それでも諦めず今ここにいるのは、あの崩壊の日々の経験があったから。ソ連からロシアへの激動を生きた世代には、そんな強さがあるかもしれません。(聞き手・関根和弘)

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 1981年生まれ。2005年来日。「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破」などの声優。NHKロシア語講座の出演も。