「女子野球パイオニア」「通天閣有名に」水島新司さん、関係者が追悼

松永和彦、井上正一郎

 「ドカベン」「あぶさん」などで知られ、野球漫画の第一人者だった水島新司さんが82歳で亡くなった。水島さんは、男性選手しかいないプロ野球の世界に女性投手が挑む作品を半世紀ほど前に描いていた。女子野球の関係者からは、「女子野球のパイオニア」と悼む声が上がった。

女子野球のレジェンド「理解示してくれた」

 1972年に連載が始まった「野球狂の詩(うた)」は、女性投手の水原勇気がプロ野球の世界で活躍するストーリーだ。

 女子野球界をリードしてきた高橋町子さん(85)も、作品を読んで「感動した」と振り返った。高橋さんは50年代に女子実業団野球でプレーし、40代で審判を始め、今も選手や審判としてグラウンドに立っている。

 高橋さんは子どものころから野球に打ち込み、家族からは「女の子が野球なんて」と、不良扱いされていたという。この作品に触れたのは大人になってからだが、「女子の野球に理解を示し、取り上げてくれたことにすごく感銘を受けた」という。水島さんの訃報(ふほう)に、「すごく残念だ。感謝しかない」と話した。

 全国高校女子硬式野球連盟代表理事の浜本光治さん(65)も学生時代に野球狂の詩を読んだ。「左利きのアンダースローという珍しい設定だったので、現実でもありえるんじゃないかなと思った」という。

 日本野球機構の一部の球団が支援する硬式野球の女子チームが発足した。昨年は全国高校女子硬式野球選手権大会の決勝が、阪神甲子園球場兵庫県西宮市)で初めて開かれた。

 浜本さんは「女子野球のパイオニアであり、先見の明があった。作品を描いた当時から、将来、女性が野球で活躍する時代が来ることを想像していた。心から尊敬します」と話す。

 自身は平成国際大学(埼玉県加須市)の女子硬式野球部の監督に2007年に就任。就任当時の部員は4人だったが、今では25人ほどに増えたという。(松永和彦、井上正一郎)

難波、通天閣 作品に登場、大阪からも哀悼の声

 野球漫画の第一人者だった水島新司さんが亡くなった。代表作の「あぶさん」や「ドカベン」は大阪にゆかりがある。大阪のまちからも悼む声が上がった。

 大阪・道頓堀のスポーツバー「難波(なにわ)のあぶさん」はプロ野球・ソフトバンクホークスで、大阪・難波に本拠を置いていた南海ホークスのファンが集う。

 店の代表、武知義一さん(68)は「訃報(ふほう)は常連さんから聞いた。南海になじみのある人が亡くなり、本当に寂しい」と話した。

 「あぶさん」の主人公、景浦安武は南海ホークスに入り、ホークス一筋で活躍した。武知さんは南海時代からの長年のファンで、約15年前に開いた店の名に「あぶさん」を入れた。

 店内には歴代選手のユニホームや写真が飾られている。店の一角にはファンがいつでも読めるようにと、「あぶさん」や「ドカベン」の本が置いてある。

 高校野球を描いた水島さんの人気作「ドカベン」では、主人公らのチームに立ちはだかるライバルとして、大阪・通天閣高校という架空のチームが登場する。エースで4番の坂田三吉は、垂直に近い高い打球を放つ「通天閣打法」を披露する。

 由来はもちろん、大阪・新世界に立つ観光名所・通天閣だ。通天閣観光の高井隆光社長(47)は「通天閣の名を世に広めてもらった」と感謝した。(松永和彦)