第4回巨額の自社株買いの末に 「金融マシン化」したボーイングの自滅

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シカゴ=江渕崇
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 ライバルの欧州エアバスに対抗するため、米ボーイングが急ごしらえした小型機737MAXは2017年、世界の空に解き放たれた。米連邦航空局(FAA)から型式証明を取得し、「安全」とのお墨付きを得たのだ。737MAXは次々に注文が入り、ボーイング株も上昇を続けた。その代償は、極めて高くつくことになる。

 二つ目の事故がエチオピアで起きた19年3月の段階で、737MAXは約370機が納入され、受注残は4600機に達していた。ボーイングの商用機受注の、実に8割を占めるドル箱に成長していた。

 2度目の墜落事故が起きた後ですら、ボーイングは「安全性には絶対の自信がある」としばらく主張していた。法的責任を逃れるとともに、欠点を認めて稼ぎ頭の受注を失いたくなかったものとみられる。

 737MAXの受注増と軌を一にするように、ボーイングの財務戦略にも変化が生じていた。

 「自社株買い」への傾注である。

430億ドル超を買い戻し

 企業の決算を伝える米国のニュースで通常見出しになるのは、利益の総額よりも「1株あたり利益」(EPS=Earnings Per Share)であることが多い。多くの投資家が気にするのがその数字だからだ。

 自社株買いは、市場に出回っている自社の株式を一部買い戻すことを意味する。資本効率を高め、計算上の分母を小さくして「1株あたり利益」を増やす株主還元の手法の一つで、株価を引き上げる効果が期待できる。

 アメリカではかつて、自社株買いは禁じられていた。経営者による株価の恣意(しい)的な操作につながりかねないからだ。

 しかし、レーガン政権下の1982年、米証券取引委員会(SEC)が事実上の解禁に踏み切った。米産業界で株主中心主義が強まった90年代末には、配当を上回る株主還元策に躍り出ていた。配当はいったん引き上げると後に減らしづらくなり、経営を将来にわたり縛る面がある。自社株買いなら、時々の懐具合に応じて経営者が臨機応変に使える。経営者が株主にどれだけ報いたかをはかる、指標のような存在になっていった。

 リーマン・ショックから途絶えていた自社株買いをボーイングが再開したのは、737MAXの受注が1000機を超した翌年の13年。それから737MAXの2度目の事故が起きる直前まで、その間のもうけの総計を大きく上回る600億ドル(約6・9兆円)超を株主に還元していた。そのうち7割の430億ドル超が自社株買いだった。

 18年末には、1機目の73…

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    石合力
    (朝日新聞編集委員=国際関係、外交)
    2022年1月23日17時8分 投稿
    【視点】

    ボーイング737MAXの安全性がいかに軽視されたか、この連載では、技術的な側面だけでなく、財務面からも深く分析しています。かつて737(特に500番台以降の第二世代、700番台以降の第三世代)といえば、技術的なトラブルが少ない、安全性の高い