歌会始の儀 陛下は2年連続でコロナ収束願う歌に
皇室の新年恒例行事「歌会始の儀」が18日、皇居・宮殿「松の間」で開かれた。昨年同様、コロナ対策で天皇、皇后両陛下をはじめ出席者は全員マスクを着用し、陪聴者は例年の約100人から20人ほどに絞られた。
今年のお題は「窓」。天皇陛下はコロナが収束し、人々の往来が再び盛んになる日が来ることを願う気持ちを歌に込めた。コロナ収束を願う歌を詠んだのは2年連続で、側近によると「陛下が昨年からずっと持っている思い」という。皇后雅子さまは、昨年9月に赤坂御用地から転居した皇居・御所の緑深い眺めを詠んだ。
両陛下の長女愛子さまは、学業との兼ね合いで欠席したが、成年皇族として初めての歌を寄せた。2018年に英国へ短期留学した際の思いを詠んだ歌で、英国滞在に心を弾ませる気持ちを込めたものという。
テントウムシについての歌が両陛下の前で詠まれた福岡県の田久保節子さん(81)は、天皇陛下に「様子が目に見えるような歌ですね」、生物好きの皇后さまには「テントウムシって冬ごもりを家の中でして春に飛び立つんですよね」と声をかけられたという。田久保さんは「歌会の最中も夢のような気持ちで座っておりました」と話した。(杉浦達朗)
天皇、皇后両陛下や皇族方の歌は次の通り。
天皇陛下
世界との往(い)き来難(がた)かる世はつづき窓開く日を偏(ひとへ)に願ふ
皇后さま
新しき住まひとなれる吹上の窓から望む大樹のみどり
秋篠宮さま
窓越しに子ら駆け回る姿を見心和みてくるを確かむ
両陛下長女愛子さま
英国の学び舎(や)に立つ時迎へ開かれそむる世界への窓
秋篠宮家次女佳子さま
窓開くれば金木犀(きんもくせい)の風が入り甘き香りに心がはづむ
常陸宮妃華子さま
幼子は新幹線の窓に立ち振りむきもせず川ながめゐる
寛仁親王妃信子さま
成人を姫宮むかへ通学にかよふ車窓の姿まぶしむ
寛仁親王長女彬子さま
蛍光灯映る窓辺に思ひだす大正帝の螢雪(けいせつ)の苦を
高円宮妃久子さま
車窓より眺むる能登の広き海よせくる波は雪降らしめつ
高円宮家長女承子さま
コロナ禍に換気もとめて閉ぢぬ窓エアコン眺めてしばし案ずる
◆召人
菅野昭正さん
きはやかに窓に映えたる夕虹は明日の命の先触れならむ
◆選者
篠弘さん
一本のザイルたぐりて窓を拭く岩場をこなす若者の腕
三枝昻之さん
夕映えの町が暮らしの町となり窓にひと日の灯が点(とも)りゆく
永田和宏さん
閉ざすとき窓に光の残りゐて呼べど応へぬ人ありわれに
今野寿美さん
廃校の窓の下にもこの春の花あり土地の人が植ゑにき
内藤明さん
まづ窓の位置を決めたり夏の夜に父と作りし模型の小部屋
◆入選者(年齢順)
富山県 西村忠さん(85)
剱岳三ノ窓より朝日さし富山平野に田植はじまる
福岡県 高木典子さん(84)
海を見るうしろ姿の絵のありて時をり共にその窓に立つ
福岡県 田久保節子さん(81)
柿わかばきらめくまひる窓あけて天道虫を風に乗せやる
香川県 藤井哲夫さん(78)
出来た子もそれなりの子も働いて働きぬいて今日同窓会
東京都 三浦宗美さん(68)
夫逝きて十年(ととせ)を過ぎし今もまだ窓のそとには灰皿のある
青森県 高橋圭子さん(60)
斜陽館に少しゆがんだ窓ガラス津島修治も見てゐたはずの
東京都 川坂浩代さん(55)
パソコンの小さき窓にそれぞれの日常ありて会は始まる
茨城県 芳山三喜雄さん(49)
ベランダに鯉幟(こいのぼり)ゆれる窓を指し君は津波の高さ教へる
東京都 伊藤奈々さん(41)
窓を拭く人現れてこの場所がほぼ空だつたことに気が付く
新潟県 難波來士さん(16)
窓の外見たつて答へはわからない少し心が自由になれる
宮内庁は、来年の歌会始の題を「友」とする募集要領を18日付で発表した。「友」の文字が詠み込まれていればよく、「友人」「学友」「友好」のような熟語にしてもいい。
応募できる短歌は1人1首で、未発表のものに限られる。書式は、半紙を横長に使い、右半分に題と短歌、左半分に郵便番号・住所・電話番号・氏名(本名でふりがな付き)・生年月日・性別のほか、職業を毛筆で縦書きする。病気や障害のため自書できない場合は代筆や、ワープロやパソコンを使用して印字することも可能。その場合は、理由や代筆者の住所・氏名を書いた別紙を添えることが必要だ。視覚障害者は点字も可能。
受け付けは郵送のみで、締め切りは9月30日(当日消印有効)。あて先は「〒100・8111 宮内庁」とし、封筒に「詠進歌」と書き添える。詳細は同庁ホームページ。
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