第25回敬虔な家に育った私 パーティーの夜更け、短髪の彼女に迫られたキス
ダックス〈仏南西部〉=疋田多揚
連載「それでも、あなたを」 フランス編①
連載「それでも、あなたを 愛は壁を超える」
民族、国家体制、偏見…。世界には、人と人とのつながりを阻む様々な「壁」があります。それでも出会い、固い絆で結ばれた2人がいます。壁を超える愛の物語をつむぎ、背後にある国際問題のリアルを伝えます。
その夜、食卓に並んでいたのはインゲン豆だったか、チーズにワインもあっただろうか。たぶん。
2010年7月。週末の暑い夜、22歳のマリークレマンスは、フランス東部・ブルゴーニュ地方の実家を1人で訪れていた。
両親に、自分が抱えてきた秘密を「カミングアウト」するためだった。
「1、2、3……」。10まで数えたら切りだそう。頭の中で何度もカウントを繰り返した。でも、ダメだ。声が出ない。
何も切り出せないまま、息苦しい夕食が終わった。外の空気を求めて庭へ出た。
畑に囲まれた一軒家は、すでに夕闇が訪れていた。晴れた夜空へ、たばこの煙を吐き出した。
「どうかしたのか?」
振り返ると、パイプたばこをくわえた父がいた。
「何だかちょっとつらそうだったけど」と気遣った。いつもの穏やかな父がそこにいた。
「ねえパパ。私最近、オロールのことばかり話すけど、彼女、ただの友達じゃないの。それ以上なの」
言ってしまった。でもこれで…