インフラ復旧も住民戻らず 課題解決「地道に」 南相馬市長選を前に

佐々木達也
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 東日本大震災東京電力福島第一原発事故からまもなく11年。福島県南相馬市は避難指示解除から約5年半がたつ今も、小高区の人口は震災前の約3分の1にとどまり、住民らは先行きに不安を抱える。23日投開票の市長選を前に、市の課題や将来像を考える。

 2016年夏まで避難指示が続いた小高区の貴船神社で9日、火よけを願う伝統の「火伏せ祭り」が復活した。原発事故による避難指示に加え、解除後も住民がなかなか戻らず、11年を最後に途絶えていた。

 境内では、伝統の神楽が上演された。保存会の8人が楽器を演奏し、勇壮な獅子舞を披露した。ただこのうち、小高区に戻っているのは3人だけ。残る5人は避難先から駆けつけた。

 祭りのありようも以前とは様変わりした。境内での催しにとどまり、神輿(みこし)の練り歩きもできなかった。担ぎ手がいないからだ。

 氏子総代の佐藤禎晃さん(82)は祭りが復活したことに胸をなで下ろしながらも不安を募らせる。帰還した人は高齢者が大半。今はまだ元気だが、この先はどうなるのか。「在宅医療介護施設が充実しないと戻ってこない」と考える。

 先月27日には、国政政党の代表が小高区の住民約15人から復興への意見を聴く場があり、不安の声が相次いだ。

 「(小高区の)住民は約3分の1になり、高齢者が半分。商店も3分の1になり、先が心配される」。住民の一人が口火を切ると、農業者は「基盤整備の終わりを決めないでほしい」、女性は「新しいものを立ち上げないとダメだ」と訴えた。原発の処理水を海洋放出する政府方針に対し、風評被害を心配する声もあった。政党幹部は「短期的ではなく、じっくり戻れるようにしたい」などと応じていた。

 原発事故後、小高区と原町区の一部に出ていた避難指示は16年7月、ほぼ全域で解除された。それから約5年半。小高区の居住人口は震災直前の約1万3千人に対して、移住者がありながらも、現在は約3800人にとどまる。そのほぼ半数は65歳以上の高齢者が占め、市全体の高齢化率36・7%(昨年9月現在)を大きく上回る。

 人口減少は小高区だけではなく、同じ避難指示区域だった原町区の一部も同様の悩みを抱えている。

 市全体でみても、人口減少は顕著だ。震災直前に約7万1千人を超えていた住民は、昨年9月現在、約5万5千人に減った。

 人口減に見舞われる一方で、有効求人倍率は2倍を超え、人手不足が続いている。製造品出荷額は震災前を上回る。新たな工業団地が整備されて企業誘致が進み、道路や鉄道などのインフラ復旧はほぼ終えた。それなのに、帰還者は頭打ち傾向になり、人口が回復しない悩みを抱えている。

 両候補ともに若者の移住などを訴えるが、移住策を打ち出しているのは他の被災地も同じだ。子育てや教育環境の整備、高齢化に備えた医療・介護の充実、特色あるまちづくりも必要になってくる。解決する課題は多岐にわたる。

 帰還の「特効薬」はあるのだろうか。氏子総代の佐藤さんは、こう語った。

 「難しい。ひとつずつ地道に解決していくしかないのかな」(佐々木達也)