鳥羽・浦村町発「落ちないカキ」 三重

大滝哲彰
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 南太平洋のトンガ諸島で起きた海底火山の大規模噴火による潮位の上昇で、カキ養殖が盛んな三重県鳥羽市浦村町で養殖用いかだが流され、カキが海中に落ちるなどの被害があった。そんななか、地元のあるカキ養殖業者は考えた。「落ちなかったカキを『ド根性ガキ』として発信できないか」――。

 津波注意報が出された16日未明、浦村でカキ養殖業を営む「孝志丸水産」代表の浅尾大輔さん(42)は消防団の詰め所に向かった。海は目視で確認できるほど波打っていた。「バキバキ」と音が聞こえた。いかだがひしめき、木材が折れるような音だった。

 県によると、鳥羽市で60センチの津波を観測。いかだ約500台が流され、一部は破損したという。

 浅尾さんの話でも、いかだが壊れたり、いかだを固定するロープが絡まったりする被害があった。海に落ちて採れなくなったカキもある。

 だが、浅尾さんは言う。「浦村からカキがなくなったわけではないんです。いかだが流されても残ったカキはたくさんある」

 そこで考えた。受験シーズンが到来する。「落ちずに残ってくれたカキを『落ちないカキ』『ド根性ガキ』として、ポジティブなキャンペーンを広められないか」

 この発想の受け皿になったのが、地域課題の解決を目指す桑名市のベンチャー企業「On―Co(オンコ)」が手がける「丘漁師組合」という取り組みだ。「丘」から海の課題を考え、活動する人を増やすことがコンセプト。発起人の水谷岳史さん(33)が、浅尾さんの思いを聞き取り、17日に自身のフェイスブック(FB)でこう発信した。

 「押し寄せる困難を跳(は)ね返し、しっかりとしがみつく牡蠣(カキ)。これを食べたら、受験に落ちないこと間違いナシ!!」

 FBで、カキ50個を5千円で約50セット用意していることも投稿。すぐに数十件の問い合わせがあったという。水谷さんは「丘にいる人の意識や行動が変わることで、解決できる海の課題はたくさんあるはず。そうした関係性ができることで、今回のような事態でもすぐに動ける」と話す。

 カキの出荷は最盛期を迎える。浅尾さんはいかだの復旧に追われながら出荷に励む。「海の恩恵を受ける商売なので、天災とうまく付き合っていかないといけない」。それでも、何度でも言いたい。「津波にも負けずに残ってくれた『ド根性ガキ』があるんです。今年もおいしいカキを食べてほしい」と。(大滝哲彰)