オダギリジョーがジョーである理由 急転直下の朝ドラ「カムカム」
ジョー(オダギリジョー)、何てことを――。1月21日のカムカムエヴリバディは、まさかの展開になった。悲劇的出来事だけれど、さすがはオダギリジョー。本領発揮の演技で視聴者を驚かせた。
上京早々、突然トランペットが吹けなくなった錠一郎。芸能事務所の社長令嬢奈々(佐々木希)の計らいで病院を回るが、原因は分からないまま。やがて事務所から見放され、デビューの夢ははかなく散った。
大阪へ戻った錠一郎は、るい(深津絵里)にも心を閉ざす。
「終わりや」
「奈々のことが好きになった。せやから、お前とは終わりや」。本当のことを言わないまま、うそで関係を絶とうとする。
自暴自棄になった錠一郎の急変ぶり。ネットでは、るいとのこれからを心配する視聴者から様々な声が上がった。
「吹け、吹くんだジョー」「ジョーのあほたれ」。世捨て人のようになった錠一郎に、演じるオダギリジョーの演技力を称える声も。「ジョーがオダギリジョーを出してきた」
やっぱり、この役はオダギリジョーでなければならなかった。
「すごく悩みました」
幸せと絶望を行き来するドラマには、視聴者を翻弄できる役者こそふさわしい。
だがオダギリジョーは、錠一郎役について「お引き受けするかどうかすごく悩みました」と明かす。
「朝ドラは自分との距離が遠いものだった。僕は夜中の作品のほうがしっくり来るタイプだし(笑)、今までもインディーズや小さな作品に重きを置いて活動してきたので、自分らしくないかなとだいぶ悩みました」
しかし、脚本家の藤本有紀さんが自身をイメージして書いた役だと知り、前向きな心持ちになっていったという。
「分かりやすい表現よりも」
「役者冥利(みょうり)に尽きる光栄なこと。求めてくれた以上のものをお返ししたいという気持ちに傾いていきました」
「僕は俳優として少しひねくれたタイプ。あまり分かりやすい表現をしたくないんです。NHKだから、朝ドラだからといって、丁寧で分かりやすい芝居をするのではなく、いつも通りの表現を心がけました」
「分からない」から、先が気になる。
「ジョーはひなたの人生にも関わっていく役なので、丁寧に感情を紡ぐように心がけています。るいとジョーの物語が(3代目主人公)ひなたに受け継がれた時、改めてるいとジョーの若かりし日々や大阪での物語がいとおしく感じてもらえたらいいな」
暗闇でしか見えない光がある。それがこのドラマのメッセージ。次週は、絶望の先にあるものを見届ける展開になりそうだ。(土井恵里奈)