選挙をモチーフにした映画が2本公開されている。野党側から見た大島新(あらた)監督(52)のドキュメンタリー「香川1区」と、与党側から描いた坂下雄一郎監督(35)の劇映画「決戦は日曜日」。2人の監督が政治を扱うことの面白さや難しさを語り合った。(編集委員・石飛徳樹、佐藤美鈴)
大島 前作「なぜ君は総理大臣になれないのか」を企画した時、プロデューサーから「そんな映画、誰が見るんですか」と言われました(笑)。
坂下 (現在50歳の)小川淳也さんが30代の頃からカメラを回していますよね。映画にしようと思っていたんですか。
大島 小川さんの最初の選挙をテレビ番組にしようとしたんですが「1人の候補者ではダメだ」と言われ、3人のオムニバスになりました。テレビのお作法で作ったことに後悔が残り、撮影を続けていました。
坂下 僕の場合、政治をモチーフにしたのは、企画を始めた当時、政治の映画が少なかったのもあります。あまり知られていない世界を描きたいと思っていて、その時に、選挙が面白いんじゃないかと。
大島 オリジナル脚本はただでさえ企画が通りにくいのに、政治を扱った映画がよく成立しましたね。
坂下 成立しづらいからこそやるんだ、みたいな気概があったわけではないんです(笑)。それまでは何となく政治を遠ざけていましたが、選挙カーで演説している絵って、面白そうだなという軽い動機からでした。
選挙では人間の本性がむき出しになる
大島 「新聞記者」のドラマ版など、政治をモチーフにした作品が出てきたのは頼もしい。「決戦は日曜日」はコメディーにしたのが良かったですね。
坂下 コメディーにするなら体制側を描こうと。号泣県議とか、秘書への暴言の音声流出とか、インパクトある出来事がいくつも起き、脚本作りの際にいろいろな意味で影響を受けました。ああいう出来事って、劇映画でやると意外にウソっぽく見えるんですよ。
大島 「香川1区」も善悪がはっきりしすぎて、劇映画では無理でしょうと言われました。
坂下 現実との兼ね合いが難しくなりましたね。
大島 選挙って人間の本性がむき出しになるんですね。小川さんも冷静さを欠く精神状態になりました。平井卓也さんも東京でお会いした時には、前作も褒めて下さり「さすが大人の対応」と思ったんですが、選挙中に突然「あんなPR映画は許されない」と怒り始めた。選挙は人間を追い詰めるんです。
「香川1区」の小川事務所での「タスキ論争」、「決戦は金曜日」に取り入れられたネットと現実のギャップ。記事後半では選挙や社会を巡る理想と現実、そこで映画は何ができるかまで語り合います。
坂下 ああいうすごい瞬間が撮れた時はどんな気持ちになるのですか。
大島 「キターー」という感…