「現代の加賀藩主」の散歩に同行した 52歳下の記者が感じたこと

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川辺真改
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 この59年間、たった2人しか知事を知らない土地――。それが石川県だ。

 谷本正憲知事(76)は、東京や大阪の知事のように毎日全国ニュースに登場する人ではない。だが、現職知事で最長の7期28年を務めている。藩政期にさかのぼっても、これより在任期間の長い加賀藩主は13人中4人だけ。ちなみに国内で最長だったのは、谷本知事の前任の故・中西陽一前知事で、その任期は8期31年だった。

 「まるで現代の藩主みたいだなあ」。異例の長期政権を続ける権力者はどんな人なのか。どんな景色を見ているのか。近くで探ってみたい。4月に石川県政担当になった記者(24)は、知事が散歩を日課にしていると聞き、同行できないかと切り出した。52歳も年齢が離れた記者の申し出を、知事は「天気が悪い日以外は毎日歩いているぞ」と快諾してくれた。

5月

 散歩が始まった。朝5時過ぎ、谷本知事はウィンドブレーカーにマスク姿で現れた。夜明け前の金沢21世紀美術館の前を抜けて、誘致に関わった国立工芸館に向かう。その後兼六園を散策し、自ら復元の先頭に立った金沢城へ。時折、散歩仲間と談笑しながら1時間20分歩いた。

現職最長7期28年を務める石川県知事との朝の散歩が始まりました。「なぜそこまで長く続けられるのか」「多選批判をどう考えているのか」など、記事後半では、記者の問いに答えた知事の言葉の数々を紹介します。県政事情に詳しい専門家のインタビューもあります。

 「これが長く知事を続ける秘訣(ひけつ)なんだ」と知事がつぶやいた。

 半年後、20回以上の散歩への同行を経て、記者はその言葉の意味を知ることになる。

 ともかく実現した知事との散歩の初日、何を聞くべきかと迷っていると、最初の知事選の話になった。金沢の中心市街地・香林坊交差点での街頭演説を知事が振り返り始めると、20代の記者にとって教科書で学んだ人名が飛び出した。

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    曽我部真裕
    (京都大学大学院法学研究科教授)
    2022年1月25日18時11分 投稿
    【視点】

     首長個人に深く食い込んでの取材は珍しいので、貴重な記事だと思います。もっとも、「谷本知事は県政界での出来事を物語のように語り続けた」「知事の言葉は時折、この人でなければ語れないトップ論に近いものも感じる」などとあるものの、その内容は語られ

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    山下剛
    (朝日新聞横浜総局次長=医療的ケア児)
    2022年1月25日18時24分 投稿
    【解説】

    知事たちの牙城、全国知事会を3年間あまり、担当していたことがあります。今回のコロナ禍が浮き彫りにしたように、知事はとても影響力が大きい存在です。 にもかかわらず、コロナ禍になるまではその一挙手一投足が報道されることはほとんどありません