84歳でのALS宣告 「もう年だから」と言いつつ重い失望感
それぞれの最終楽章・ALS、私の場合(3)
ノンフィクション作家・井口隆史さん
検査のために入院したのは2019年11月5日だ。病室は、大部屋に空きが出るまで個室である。担当の看護師からこう言われた。
「あなたは転倒、転落の危険が高いので、室内で物を取るときも、必ずナースコールをしてください」
お約束ですよ、と念を押された。渡された書類の入院理由の欄には、〈運動ニューロン疾病の疑い〉と書かれてあった。
聞き慣れない病名だ。入院前の外来でM医師が初めて「運動ニューロン」を口にしたとき、紙に脳幹と脊髄(せきずい)、そこから末端に延びる神経の略図を描いてくれた。これらの神経を調べたいのだとは理解したが、私の頭の中では、ALSとは結びついていなかった。
M医師チームによる検査の日…