鶏卵、ケージフリーじわり 群馬・伊香保の松本楼が切り替え宣言

前田基行
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 ホテルで提供する卵は2027年までにケージフリー(平飼いや放牧)の鶏の卵に変えます――。伊香保温泉群馬県渋川市)のホテル松本楼が昨年11月、こんな宣言を出した。鶏や牛、豚などの家畜を感情を持つ生き物としてとらえ、ストレスがない快適な環境で飼育しようという「アニマルウェルフェア」に基づく取り組みだ。

 「鶏卵生産者の方々の変革の動機付けに少しでもつながればと願っています」

 ホテル松本楼の若おかみ、松本由起さん(52)は「ケージフリー宣言」への思いをそう話した。

 きっかけは、旅行でホテルを訪れたNPO法人アニマルライツセンター(東京都)代表理事の岡田千尋さんと知り合い、アニマルウェルフェアの考え方を知ったことだった。欧州のスーパーではケージフリーの卵が多く並び、消費者が選べるようになっている、といった話もそのとき初めて知った。

 ホテル松本楼は食品ロスの削減やバリアフリー化に取り組み、SDGs(国連の持続可能な開発目標)の活動にも力を入れている。「アニマルウェルフェアはSDGsにもつながる話」。松本さんはケージフリーに切り替えることを決めた。

 ホテルでは年間5万個の卵を使う。松本さんが取引先の養鶏業者に確認すると、すぐにケージフリーに変えるのは難しいが、2027年までの猶予があれば「検討します」との返答だった。「ケージフリー宣言をしても、他県から卵を買ったのであれば地産地消にならない」。そこで、準備期間を考慮し、宣言は「2027年までに」とした。松本さんは「アニマルウェルフェアの現状について、宿を通して知ってもらえればうれしいです」と話す。

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 アニマルウェルフェアは「動物福祉」とも訳される。1960年代、家畜をモノ、工業的に扱うことを批判した本が出版されて大きな関心を呼ぶなど、欧州では広く知られた考え方だ。「五つの自由」が中心的な概念だ。

 日本でも、農林水産省が2017年に国際獣疫事務局(OIE)の指針を踏まえ、「アニマルウェルフェアに配慮した家畜の飼養管理の基本的な考え方」を示すなど広がりつつある。

 ただ、鶏の飼い方などを巡っては、欧州などと日本では温度差がある。

 採卵用の鶏の飼い方は大きく分けて「ケージ飼い」と「平飼い」がある。ケージ飼いについて、欧州連合(EU)が12年に、鶏の身動きが取りにくい「バタリーケージ」と呼ばれる金網のケージを禁止するなど、欧州や米国の一部の州で規制する動きが進む。

 一方、日本ではケージ飼いが主流。公益社団法人畜産技術協会の14年の調査では、回答のあった採卵養鶏農家398件のうち、鶏舎の棟数ベースで9割以上がケージ飼いだった。

 アニマルライツセンターの岡田さんが「1羽あたりの飼育面積がiPad1枚ほどの広さしかなく、羽も自由に広げられないようなケージに一生閉じ込められる、といった飼い方が日本では多い」と問題視するのに対し、農林水産省は「日本では生卵を食べる人が多い。ケージ飼いは鶏や卵がふんに触れにくく衛生面で良いなどの点がある。アニマルウェルフェアは総合的に判断するべきだ」(畜産振興課)とのスタンスだ。

 アニマルライツセンターによると、国内でケージフリー宣言をした企業はこれまで約150社に上り、「ここ2年くらいで一気に増えている」という。

 県内でも平飼いに取り組む養鶏業者もある。前橋市の角田養鶏もその一つ。1980年代半ばから、ケージ飼いをやめ、鶏たちが屋内を自由に動き回れる「平飼い」を続ける。赤城山のふもとにある広々とした鶏舎では、衛生管理や快適な温度調整に気を配りながら2万羽の鶏を育てている。

 角田良雄社長は「おいしくて安全な卵をつくるには鶏の健康が第一。それにはストレスをなるべく与えないことが一番。コストはかかるが、平飼いの卵は濃厚でコクがあり、おいしいと人気があります」と話す。

 岡田さんは「欧米では消費者が原動力となって法規制が進んだ。日本ではアニマルウェルフェアが消費者にほとんど知られていない。多くの人に知ってもらい、動物たちの状況に関心を持ってほしい」と話す。(前田基行)

アニマルウェルフェアを支える「五つの自由」

①飢えや渇きからの自由

②恐怖や苦悩からの自由

③暑さや寒さなど不快からの自由

④痛みやけが、病気からの自由

⑤本来の行動ができる自由