2016年に始まったマイナンバー制度。欧米には、古くからそれぞれの国民番号制度を導入し、利活用を進める国も少なくありません。プライバシー意識の高さが背景とも指摘されてきた日本の「遅れ」。しかし、韓国出身で、海外の番号制度の成り立ちにも詳しい国学院大専任講師の羅(ナ)芝賢(ジヒョン)さん(37)=行政学=は、「プライバシー意識論」には限界があると説きます。ではなぜ、日本ではマイナンバーの利用もマイナンバーカードも国が思うように広がらないのでしょうか。
――来日したとき、日本に統一的な国民番号制度がなかったことに驚いたそうですね。
05年に交換留学生として来日し、携帯電話を契約しようとしたときでした。申込書に名前、生年月日、住所を書いたのですが、国民番号を書く欄がないのです。韓国では、学校に入るときも銀行口座をつくるときも「住民登録番号」が使われており、番号がない生活は想像もできません。驚くと同時に、番号がなくても個人情報は管理できるのに、なぜ韓国では必要とされるのだろうという疑問もわきました。
数年後、今度は1歳の子どもを連れて都内の役所に転入手続きに行きました。転入届、健康保険の届け出、児童手当の申請……。ぐずる子どもをなだめながらそれぞれの窓口で毎回、名前、生年月日、住所を書き、今度は運転免許証の住所変更をしようと警察署に行ったところ、住民票が必要だと言われて本当に泣きたくなりました。韓国では、住民登録番号にひも付いている個人情報が、さまざまな機関で共同利用されており、こうしたことはなかったからです。
統一的な国民番号があったほうがいいと思っているわけではありません。日本と韓国でなぜこんなにも違いがあるのかを探ってみたくなったのが、研究のきっかけでした。
――日本でマイナンバー導入時に懸念されたのがプライバシーの問題です。かつての納税者番号なども同様で、プライバシーを重視する「国民性」を指摘する人もいます。日本人は戦時体制下で思想統制を経験した結果、プライバシーを重んじるようになったという見方です。
統一的な国民番号制度を導入した国はプライバシー意識が低いのかというと、そうではないと思います。プライバシーは普遍的な価値で、誰もが守りたいのではないでしょうか。
――プライバシー重視の「国民性」が理由ではないなら、慎重な理由は何でしょう。
■住基ネット離脱の自治体が相…
【視点】たいへん興味深い比較行政史研究の視点。「番号を創る権力」(東京大学出版会)を読んでみよう。コメントはそのあと。