岩井俊二、原田マハが心酔 おとめチック漫画・田渕由美子の世界

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太田啓之
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 映画監督の岩井俊二さんにとって「不変不朽」の創作活動の原点であり、作家の原田マハさんが「心の中の宝箱に大切にしまってある美しい砂糖菓子」に例える少女漫画家・田渕由美子さんの作品群。田渕さんはかつて、少女漫画雑誌「りぼん」で「乙女ちっくロマン」ブームを担いました。昨年には東京都弥生美術館で企画展が開催され、新たな作品集も世に出るなど、再評価が進む田渕作品の魅力を解き明かします。

 「白いペンキぬりのフランス窓のあるちいさな家からこのお話は届けられます 住んでいるのは3人の少女たち 風の中に今 かおりはじめているのは初夏の匂いです」――

 田渕由美子さん(67)の代表作で「乙女ちっくロマン」少女漫画の傑作「フランス窓便り」(1976年)は、こんなロマンチックなナレーションで始まる。

 70年代、萩尾望都さんの「ポーの一族」、竹宮惠子さんの「風と木の詩」などの文学的で先鋭的な作品が、少女漫画の水準を一気に引き上げた。その一方で、75~79年ごろに少女漫画雑誌「りぼん」で爆発的な人気を得たのが、田渕さんや陸奥A子さん、太刀掛秀子さんらの描く「乙女ちっくロマン」と称される作品群だった。

 田渕さんは54年生まれ。「フランス窓便り」を描いた頃には、早稲田大文学部に在籍しつつ、4畳半一間で作品を描いていた。作品の大半は30~50ページ程度の短編で「物語に登場するどの子も私自身の中にいる女の子。それを膨らませてキャラクターを作り上げた」と話す。

 昨年、「田渕由美子展」を開催した弥生美術館(東京都文京区)の学芸員・外舘惠子さん(37)は「田渕先生らの作品は読者と等身大の主人公や学生服の男の子、自分でも着られそうな魅力的なファッションやインテリアを描き、女の子たちが『自分の物語』と感じられた」と話す。「りぼん」の購読層は従来、小学4年から中学1年くらいまでの女の子だったが、「乙女ちっく」の時代には大学生にまで上がり、男性の読者も少なくなかったという。

 映画監督の岩井俊二さん(5…

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