連載「それでも、あなたを」アメリカ編①
連載「それでも、あなたを 愛は壁を超える」
民族、国家体制、偏見…。世界には、人と人とのつながりを阻む様々な「壁」があります。それでも出会い、固い絆で結ばれた2人がいます。壁を超える愛の物語をつむぎ、背後にある国際問題のリアルを伝えます。
「なんで共和党支持者とデートするの?」
2013年、米コロラド州プエブロ。33歳のヒラリー・チグローは、つきあい始めたマット・グラスゴーについて、友だちからそう問い詰められた。
ヒラリーとマットは、誕生日が1980年7月1日で、全く一緒。13年に共通の友人が合同誕生会を開催したことを機に、デートをするようになった。
ホラー映画が好きで、歴史に興味がある。旅行も楽しむ。そして、2人ともバツイチ。共通項がたくさんあり、お互いに話しやすかった。
ただ、全く折り合わないこともあった。政治信条だ。
ヒラリーは根っからの民主党支持者。小学生の頃、民主党の大統領候補が遊説で来ることを理由に、学校を早退したほどだ。06年からは州職員の労働組合で働いており、「リベラル」を自認する。
一方、マットは増税などに慎重で、共和党を支持する。大型小売店の配達センターで整備士として働いていた。
知り合って間もないころ、2人の考えがいきなり衝突したのも、政治がらみだった。
署名の名簿にあった名前は
銃規制を強化する州の民主党議員を、銃規制反対派がリコールの署名を集めて辞めさせようとする運動が起きた。13年夏のことだ。
コロラド州では12年7月、映画館内の乱射で12人が殺害された。その年末には、別の州の小学校で26人が射殺される事件も起きた。
銃規制を求める動きはかつてないほど盛り上がり、コロラド州では13年初めに民主党議員が銃規制を強化する法案を議会で可決・成立させた。長年の民主党支持者のヒラリーも、規制に賛成していた。
だが、マットは違った。「ある権利に対し、政府による規制を認めると、どんどんと進んでいく」。そう考えて規制強化に反対だった。
ひょっとして……。ヒラリーは民主党議員へのリコール署名簿をチェックした。
やっぱり、マットの名前があ…