「『きれいごと』では残らない」 BリーグがSDGsを進めるわけ
男子プロバスケットボールのBリーグはいま、リーグとクラブが一丸となってSDGsに積極的に取り組んでいる。はやりに乗っているだけなのか、それとも別の狙いがあるのか。(松本麻美、野村周平)
SDGs 国連が2015年に採択した「持続可能な開発目標(サステイナブル・ディベロップメント・ゴールズ)」の略。貧困や気候変動などが深刻化するなか、国際社会で誰一人取り残さないために、先進国と途上国が一丸となって取り組むべき課題を示す。17の目標と169のターゲットから構成され、30年までの達成をめざしている。
鉄道の高架下に、学校帰りの小中学生たちが集まってくる。
B1川崎ブレイブサンダースは昨年11月、川崎市の東急電鉄武蔵小杉駅近くにバスケットボールのコートをオープンさせた。SDGsで掲げる17の目標の一つ、「すべての人に健康と福祉を」の項目を念頭においた取り組みだ。
バスケットにあまり興味がない子でも楽しめるよう、他競技を含めたスポーツ漫画や書籍を置いたり、プログラミング体験のできるタブレット端末を置いたり。いずれも高校生以下は無料で利用できる。「家庭や学校でうまくいかないことがあった時、(子どもたちにとって)ほっと一息つける居場所になってほしい」と川崎の元沢伸夫社長は話す。
今季初めてB1を戦う群馬クレインサンダースでは、SDGsのうち「陸の豊かさも守ろう」を意識し、親会社の住宅メーカーと組んで森林保全活動を進める。広島ドラゴンフライズは「平和と公正をすべての人に」を掲げ、8月6日の原爆の日に合わせて選手が自ら折った折り鶴を手に、平和への思いを語る動画を配信したり、試合開催時に対戦相手と折り鶴の交換をしたりしている。
Bリーグのクラブが、SDGsに積極的なのはなぜなのか。
千葉ジェッツ(千葉J)の田村征也社長は「SDGsというキーワードが絡むことで、より多くの団体とつながりやすくなった」と語る。
業務内容が一般の人たちにはなじみの薄い企業から、SDGsの一環として「子どもたちのために一緒に何かできないか」と相談を受け、新規のスポンサー契約につながったケースがあったという。「波及効果は大きい。クラブのイメージアップにもなっている」と語る。
SDGs研究の国内第一人者で慶応大大学院の蟹江憲史教授は、SDGsへの向き合い方が、クラブ運営にも影響を与える可能性があると指摘する。
「SDGsという言葉は企業にとっての魅力も増している。スポンサーにとって価値のある活動を行うことが、クラブの持続可能性にもつながる。『きれいごと』だけで、行動が伴わなければスポンサーは残らない」
クラブを束ねるBリーグにも、各クラブがどのようにSDGsを進めているのか、という問い合わせが企業から寄せられているという。スポンサー獲得の好機を逃すまいと、リーグは今季から各クラブに、クラブの社会的責任活動の窓口となる「SR担当」を置くことを義務づけた。2月にはB1・B2のSR担当を集めたSDGs会議を初めて開き、先行事例のノウハウを共有するなどして各クラブの活動を促すという。
2016年に発足し、6季目を迎えているBリーグ。プロ野球、Jリーグに続く国内3番目のプロスポーツリーグだが、先行している2競技に人気や知名度で大きく後れを取っている。島田慎二チェアマンは「今、注目を集めているSDGsの分野でBリーグはどのスポーツ団体よりも力を入れていきたい。『SDGsといえばBリーグ』となれるよう、リーグ全体で力を入れて取り組んでいきたい」。
SDGs17の目標
①貧困をなくそう
②飢餓をゼロに
③すべての人に健康と福祉を
④質の高い教育をみんなに
⑤ジェンダー平等を実現しよう
⑥安全な水とトイレを世界中に
⑦エネルギーをみんなに そしてクリーンに
⑧働きがいも経済成長も
⑨産業と技術革新の基盤をつくろう
⑩人や国の不平等をなくそう
⑪住み続けられるまちづくりを
⑫つくる責任 つかう責任
⑬気候変動に具体的な対策を
⑭海の豊かさを守ろう
⑮陸の豊かさも守ろう
⑯平和と公正をすべての人に
⑰パートナーシップで目標を達成しよう
【視点】いまや「SDGs」は、日常生活でのちょっとした会話でも話題に上るほどに流行しています。その内容が誰もが納得するものだからでしょう。だからこそ「きれいごと」として受け取られかねず、ともすればビジネスチャンスとして利用されることもありうる。蟹江
【視点】地域密着型スポーツ、地域貢献という理念がしっかりしているJリーグとBリーグ、そして女子サッカーのWEリーグは、スポーツ界の社会貢献活動においてかなり先を歩いているような感があります。選手やチームが個々でやるのではなく、リーグ全体として推し進