議論のきっかけは応援団のげた 秋田の県立高校、私服を認めて50年

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高橋杏璃
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 秋田県内の県立全日制高校で唯一、制服を着なくてもよい自由が秋田高校で認められてから、今年度で50周年を迎えた。ただし、生徒手帳にはいまも、「実証期間」との留保が残る。「服装の自由」とは、「生徒の自主性」とは――。規則の撤廃を求めて当時学校側と交渉した卒業生は、半世紀たったいま、改めて考える機会になればと願う。

当時の生徒会役員「有頂天になった」

 秋田高で着装が自由化されたのは、1971(昭和46)年11月。当時は全国的にも制服着用が当たり前だった。

 卒業生の今野孝一さん(68)によると、炎天下で活動することのある応援団の生徒が、校則で指定された靴でなく涼しいげたを履きたいと訴えたのが発端。そこから「げたが良いとしたら、サンダルはだめなのか」「なぜ汗だくなのに学生帽をかぶらないといけないのか」と、生徒たちの間で議論が広がった。

 さらに議論は発展し、70年に当時の3年生が「着装の全面自由化」を提案した。生徒会誌には、発起人たちが「私たち高校生も基本的人権を有しているのは明白であり、着装に規制を受ける義務はまったくない」と訴え、生徒会に決議要求したと記されている。

 前年には全学共闘会議が東大の安田講堂を占拠するなど、学生運動が盛んだった時代。今野さんは「時代的に言えば、学生が世論に抵抗する流れがあった」と振り返る。ただ、着装自由化を求める活動は、学生運動とはあくまで別のものとして進んでいたという。

 クラス単位での話し合いを経て、71年1月以降、生徒たちは着装の自由を求める要求書を何度か校長に提出したが、校長は生徒たちの気持ちに理解は示しつつも、保護者の理解を得る必要があるなどと説明。「現時点では全面自由化は適切とは言えない」と回答した。

 学校側と意見が相いれないまま発起人たちは卒業。3年生になった今野さんは生徒会書記長に就き、学校側に再度着装の全面自由化を求めた。生徒たちの授業ボイコットなどを経て、最終的に、1カ月の試行期間を設けたうえでの自由化に合意。試行期間を経て、71年11月の全校集会で施行が確認された。

 今野さんは「決まったことがうれしくて、有頂天になった」と懐かしむ。全校生徒の半数ほどが、私服で登校を始めた。

 これで正式に着装の自由が認められたはずだった。

「他校の議論のきっかけにもなればいい」

 だが自由化50周年を迎えて、今野さんが調べてみると、現在の生徒手帳に「自由化している学校がごく一部である現在、われわれの自由化は常に実証期間なのである」との文言があることに気づいた。

 文章全体を読むと、「与えられた自由ではなく、自分たちで獲得した自由なのだから、その原点に常に立ち返る必要がある」という趣旨の心構えも記されている。ただ、書かれたのは72年12月で、署名は「着装問題に関する生徒心得改訂推進生徒委員会」。今野さんは、当時の生徒がこう解釈するのは理解できるとしつつ、留保をつけたのは、制服着用を義務づけている他校への配慮があったからではないかと推察する。

 県教育委員会によると、県内には現在、分校などを含めて44校の全日制県立高校があるが、私服でも登校できる学校は秋田高以外にない。今野さんは「50年経ったらもう実証期間という文言はなくていい。着装の自由について、他校の議論のきっかけにもなればいいと思う」と話す。

風紀の乱れなし、50年間が担保

 現役の秋田高生は、どう思っているのだろうか。昨年12月中旬、倉田寛行副校長と生徒会の4人が取材に応じてくれた。生徒のうち3人は私服。式典があったり、部活で必要だったりする時以外は、大半の生徒が私服だという。

 4人は、11月に行われた着…

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    おおたとしまさ
    (教育ジャーナリスト)
    2022年1月29日7時8分 投稿

    【視点】1970年前後に全国で高校紛争が起こりました。そこで自由を勝ち取った学校と、ますます管理されるようになった学校とに二極化しました。弁が立つ生徒たちがいて、論理的に教員たちを説得することができた学校では自由を勝ち取りました。一方、それに失敗し

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    長島美紀
    (SDGsジャパン 理事)
    2022年1月28日15時29分 投稿

    【視点】私が通っていた高校は決まった制服はなく、一定のルールはあったものの基本自由な服を着ることができました。ただ、当時の女子高生ブームを反映してか、グループでおそろいの「なんちゃって制服」を着る同級生がいました。また服を「選ぶ」のが面倒くさいとい