忘れ物が多すぎて…かさ貸し出すバス 「降ったりやんだり」も影響?

緑川夏生
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 新潟県新潟市内を走る路線バスで、乗客に無料で傘を貸し出すサービスが続いている。なぜ、バス会社が傘を?県外のユニークな取り組みとともに、その理由を探ってみた。(緑川夏生)

運転士に声かければOK 返却は次回

 2年前に新潟市で働くようになって新潟駅行きバスに初めて乗った時、降車口付近にあった傘立てと「貸出かさ」の文字に驚いた。改めて乗客に聞くと、バス通勤しているという20代女性会社員は、傘を借りたことはないというが、「新潟は冬になると天気がいい日が少ないから助かる」と話した。

 運行する新潟交通に聞いてみた。一部の路線で傘の貸し出しを始めたのは2018年6月。希望者は、運転手に声をかければ無料で借りられ、次の乗車時に返すという仕組みだ。利用は年に500本を超え、多いと10本ほど使われる日もあるそうだ。

 始めたきっかけは、「忘れ物の活用」というシンプルなものだった。遺失物法に基づき、持ち主の申し出がないまま3カ月の保管期間が過ぎた傘を、「貸出かさ」にあてるようになった。それ以前から運転手が利用者に善意で傘を貸すこともあったといい、需要が見込まれたという。

「忘れっぱなし」も多いかさ

 貸し出した傘の返却率は「2~3割」とのこと。それでもサービスが続いているのは「貸し出す傘より、忘れ物の方が多いから」と同社の五十嵐一人・広報担当係長(37)。昨年の車内の忘れ物1万1683件のうち、傘は3842件(32.9%)で最多だ。貸出かさを始めるまでは、保管期限が過ぎると大半の傘を廃棄していたという。

 傘の忘れ物が多い理由について「新潟の不安定な気候も関係しているのでは」と五十嵐さん。「バスに乗る時に雨が降っていても、降車時に晴れていると傘を忘れやすい」

 「降ったりやんだり」は新潟市の特徴だ。新潟地方気象台によると、降水量が「0・5ミリ超1ミリ以下」だった日数は、昨年は、東京都心が107日だったのに対し、新潟市は162日。気象台の担当者は、特に冬の天候の変わりやすさについて「日本海で発生する雪雲が佐渡島にブロックされるため、まとまった降水より、降ったり日が差したりすることが多い」と話す。

 傘は「忘れっぱなし」も多いそうだ。新潟交通によると、昨年、332件の忘れ物があったスマートフォンは81・9%が持ち主に返されたのに、傘は25・1%に過ぎなかった。「どこで忘れたか覚えていなかったり、コンビニで買えたりするから重要だと思われない」と保管倉庫がある万代シテイバスセンター(新潟市中央区)の同社責任者、田中佑介さん(51)はいう。倉庫には、保管期限を過ぎた傘が棚いっぱいに保管されていた。

県外にもユニークな路線バス

 県外のユニークな路線バスのサービスを探した。

 甲府市は、市内の路線バスを美術館に見立て、小中学生が描いたバスの絵を来月まで展示している。公共交通に関心を高めてもらう狙いだという。

 山口県宇部市が始めた新サービスは画期的だ。市立図書館で借りた本を入れるかごを市営バス車内に置き、図書館まで行かなくても本を返せるようにした。しかも、返却かごは、乗客以外でも利用できる。

 人口減もあって利用者が減る中、乗客以外も運んでサービスを広げる「貨客混載」の第1弾。宇部市によると、実証実験の期間で無料だった2020年10月~21年3月初旬は計518冊、回数だけでみると75回、1カ月平均で約15回の利用があった。新型コロナ禍で人との接触を避けられるという意味でも好評だったそうだ。

 21年4月から、1冊50円、2冊以上は100円と有料化し、料金をバスの運賃箱に入れてもらう仕組みに。すると、先月までで、1カ月平均10回ほどの利用になったという。

 各バスに返却された本を一度にまとめて市立図書館に運んでおり、実際の返却までには2~3日かかる。そのため、利用者から「図書館から『返却期限を過ぎた』と通知を受けた」と問い合わせもあったといい、サービス改善の余地はある。市交通事業課で担当する西村太郎さん(28)は「市街地から離れた所ほど人口が少なく高齢者も多い。バスを活用して利便性を高めたい」。貨客混載のさらなる展開もめざしている。

 北海道の十勝バス(帯広市)が先月から実証実験として始めたのは、バスを移動販売車にする「マルシェバス」だ。帯広駅から郊外の団地までの区間を週2回運行し、その間の2カ所の停留所で1日計3回、長時間停車して車内で商品販売をする。取り扱うのは生鮮品や衛生用品のほか、メガネの修理サービスも。販売スペースがあるため座席は少ないものの、もちろんバスの乗車利用もできる。

 団地は住民の4割超が65歳以上と高齢化が進んでおり、「買い物弱者」の支援がサービス導入の理由。客の運送にとどまらない収益事業の多角化も目的だという。近藤薫・乗合課長(32)は「買い物で集まった住民の交流の場にもなっている。新年度以降も実現可能な方法を模索したい」と話した。