第3回駆ける石原軍団、爆破・炎上する750形…そしてあの鉄道は全国区に

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松田史朗
【動画】新幹線より100倍面白い?現役運転士に聞いた広電車両の魅力とは?=遠藤真梨、上田潤撮影、広島電鉄提供
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広島電鉄物語 第二部「動く路面電車の博物館」①

 1982年7月11日早朝、日本三景の一つ「宮島」を望む広島電鉄の広電宮島駅(現・広電宮島口駅、広島県廿日市市)。潮の香りがほのかに漂い、静けさがあたりを包み込んでいた。宮島ボートレース場方向への引き込み線上には一台の路面電車が止まっていた。

 その瞬間――。ドカーン。

 あたりに地響きが轟(とどろ)くと、車両から火の玉が上がり、激しい炎に包まれた。窓から黒い煙が天に向けて一直線に立ちのぼった。

 この日、駅で行われていたのは、刑事ドラマ「西部警察」(テレビ朝日系)の撮影だ。79年に始まり、故石原裕次郎率いる石原軍団の俳優たちが活躍する刑事ドラマで、息もつかせぬストーリー展開や激しいアクション、本物のダイナマイトを使用した爆破シーンでお茶の間を湧かせた。

 その第2シリーズ「西部警察PART―Ⅱ」の第18話「広島市街パニック!!」のロケで最大の見せ場が、当時広電の現役電車の755号(750形)がダイナマイトで爆破されるという冒頭の場面だ。

 ドラマでは、東京で暴力団組長を殺害し、現金輸送車を襲って広島に逃走した暴力団組員が、広電の運転士と7人の客を乗せた路面電車を乗っ取る。組員は広電本社に「2時間以内に100万ドルを用意しなければ電車を爆破する」と予告する。電車がポイントの切り替えで広電宮島駅に誘導されてまもなく、刑事たちが突入。犯人は逮捕され、乗客も避難して一件落着と思った次の瞬間、リモート爆弾で電車は爆破され、大炎上――という展開だ。

カープ初優勝も彩った 激レア改造車両も

 人気ドラマで、しかも現役車両の爆破シーンのロケには鉄道ファンや市民が押しかけ、駅のホームや近くの歩道橋から様子を見守った。

 現場にいた広電関係者は「ドラマのスタッフが爆薬を仕掛け、爆発を待ったが、一発目は煙だけがくすぶり、不発に終わった。20分ほどしてスタッフが『もう1回!』と声をかけ、仕切り直し。2発目は見事に火を噴き上げ、撮影に成功した。ドカンと激しい音がして車両が炎に包まれると、スタッフや消防士とみられる人たちがどっと出てきて、急いで火消しをしていた」と振り返る。

 この爆破シーンは全国で放映され、広電の知名度を全国区に押し上げたのはもちろんだが、それ以外にも様々な反響を呼んだ。

 爆破された車体に大きく貼られていたのが、宮島名物、もみじ饅頭(まんじゅう)の老舗「にしき堂」の広告だ。社長の大谷博国さんは「宣伝効果は抜群でローカルのお菓子屋が全国に知られるきっかけになった。広電と石原軍団にはいまでも感謝している」と話す。

 ドラマには、にしき堂本社が実名で登場。博国さんの父で当時社長の大谷照三さんや、「もみじまんじゅう」のギャグで一世を風靡(ふうび)した漫才コンビ「B&B」の島田洋七さん、洋八さんも俳優としてゲスト出演した。

 この爆破は、広島市民の間で別の意味でも話題になった。大炎上したはずの車両がその後も市内を運行し続けたからだ。「爆破された電車の亡霊が走っていると市民の間で話題になった」(広電ファンの一人)という。

 爆破された755号の車体には「766号」の表示が付けられていた。実際の766号は、同じ「にしき堂」の広告をつけ、爆破後も約1年間運行したという。いずれも同じ750形で違いが目立たないため、爆破された車両がよみがえったように見えたのだ。766号は、にしき堂との広告契約が残っていたため、爆破できなかったとみられる。爆破シーンと亡霊騒ぎで、にしき堂の広告効果は倍増した。

 一方で、路面電車のファンには大ひんしゅくだった。爆破された755号は、近く廃車される予定だったとはいえ、日本路面電車同好会中国支部長の加藤一孝さんは「路面電車の好きな人間からすると、あの光景は見たくなかった。広電も自社の電車の爆破なんてよく許可したなあと思った」と振り返る。

 広島で100年以上、路面電…

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