コロナ禍で広がる多様な働き方 親の世話、単身赴任の解消も

有近隆史
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 長引くコロナ禍をきっかけにテレワークが定着しつつある中、新たな働き方を採り入れる企業が増えつつあります。地方に住む親の面倒をみるために、今の仕事を続けることができないといった、「介護離職」の問題などを解決するきっかけにもなりそうです。

 明治安田生命(本社・東京都千代田区)の団体年金サービス部に所属する安井達治さん(60)は、札幌市の自宅でパソコンに向かい業務を始める。同社が受託している企業年金の規約作成や確認などをオンラインで行っている。

札幌から東京本社勤務 持病ある母親のそばに

 同部は東京本社にあるが、安井さんが札幌市から勤務ができるのは、「リモート型」という新たな職種のおかげだ。本社の部門に所属しながら地方でも働くことが可能な制度で、同社が2021年4月から試験的に導入した。

 安井さんの両親は札幌で暮らしていたが、2年ほど前に父親が亡くなり、母親(88)は一人暮らしとなった。安井さんは自身の家族と東京住まいだったため、「心臓に持病がある母親に急に何かあってもすぐには駆けつけられない」と考え、同制度に手を挙げて採用されたという。

 同社は全国各地に支社や営業所などの拠点があるものの、安井さんがこれまで担当してきた仕事は本社にしか所属部門がなかった。同社によると、所属部署から通勤圏内に住んでいる必要があったといい、実家に戻るには本社から異動する必要があった。ただ、営業など別の仕事を担当することになり、「今までの自分のキャリアでほとんどやったことがない仕事。なかなか踏ん切りがつかなかった」。リモート型ができたことで今までの仕事を続けることが可能になった。

 「同じ部署のメンバーと業務上の雑談ができないのは苦労している」としつつ、「離れているとわからなかった親の健康の衰えに気づくことができた」と安井さん。病院に付き添ったり買い物を手伝ったりしながら、母親との生活を続けている。

 同社によると、今年度は17人が適用。新規契約の査定を行う部門や金融機関の営業支援事務の部門などで勤務している。同社は22年度から本格的に導入する予定だという。

女性のキャリア広がる可能性も

 明治安田生命が「リモート型」を導入した背景には、「女性活躍」という狙いもあったという。

 同社では地方採用で事務職に就く女性社員が多くいるものの、育児など家庭の事情で転勤が難しいケースが多かった。同社によると、転勤を伴わない地域型の総合職は5810人(21年5月時点)いるが、そのうち女性は5793人と大半を占める。

 地方にいながら本社勤務ができる「リモート型」であれば、転勤を伴わなくても本社の仕事ができ、キャリア形成の面でも可能性が広がる。担当者は「多様な働き方を後押しできる。リモート型を経験した後に地方の支社などで上位職の登用をめざすことも可能になる」。

 そんな中、長引くコロナ禍が、新たなニーズへの可能性を広げた。

 同社でも緊急事態宣言などの影響で、本社勤務の社員でも「在宅勤務」が増加。在宅でも仕事ができる環境整備を進める中で、親の介護など家庭の事情で本社を離れて地方に戻らざるを得ない社員に対する働き方の選択肢を増やす検討も進められたという。

 同社の担当者は「もともと検討していた制度だったが、コロナが後押しした部分もある」と話す。

 全国に営業拠点があり、地域限定の職員が多い保険業界を中心に同様の取り組みが始まっているが、他業種でも広がっている。

単身赴任の解消

 富士通は、家族の介護や配偶者の転勤など個人的な事情で転居せざるを得ない場合でも、テレワークや出張を使って遠方からでも所属や業務を変えずに勤務できる制度を20年10月から導入した。昨年には不妊治療のために希望する専門病院の近辺や実家近辺へ転居する場合も対象とした。同社によると、国内の富士通グループ従業員約8万人のうち300人が遠方からの勤務制度を利用している。

 また、単身赴任している従業員についても、テレワークと出張で従来の業務に対応できる場合は、自宅からの在宅勤務を可能とした。約1300人が切り替えているという。担当者は「多様な人材が働く場所や時間にとらわれることなく、自分にあった働き方を選択できる施策を進めていきたい」としている。

 内閣府が昨年9月末~10月初旬にインターネットで約1万人を対象に行った調査によると、テレワークの実施率は32・2%。コロナの感染が広がってから最も高い数字となった。東京23区に限ると実施率は55・2%だった。有近隆史