福士加代子がラストラン マラソンは「苦しい」けど「好きになった」

辻隆徳
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 五輪に4大会連続で出場した福士加代子ワコール)が30日、大阪国際女子と同時開催の大阪ハーフに出場し、1時間16分4秒の30位でゴール。現役最後のレースを終えた。

 レース終盤。脇腹をおさえて立ち止まる。そして、再びゆっくりと走り出した。本人が求める「かっこいい姿」ではなかったかもしれない。だが、39歳はトレードマークの笑顔を絶やさず、走りきった。

 「最初と最後がここ(大阪)でよかった。私の走りでちょっとでも希望を持ってくれたら」と語った。

 ラストランに選んだ大阪は特別な場所だった。

 2008年の大阪国際女子が初マラソンだった。ゴール手前で何度も転倒し、19位と惨敗した。

 13年に初優勝(2位から繰り上げ)し、同年の世界選手権の銅メダル獲得につなげたのも大阪。16年リオデジャネイロ五輪の代表入りに近づいた2度目の優勝も、ここが舞台だった。

 レース後のセレモニーでは高橋尚子さんや野口みずきさん、渋井陽子さんらが駆けつけ、花束を渡された。

 渋井さんには「あまりの失速ぶりにちょっと笑っちゃって。『もうちょっと練習してこいよ』と思った」と言われた。福士は「本当はかっこいい姿を見せたかったんですけど、あんな感じになっちゃいました」と笑いながら答えた。

 先輩後輩関係なく慕われる福士ならではのやりとりだった。

 5000メートルや1万メートルでも活躍した福士はマラソンについて「苦しい、嫌い」と言うことも多かった。だが、最後のレースを終えると、こんな言葉を口にした。

 「マラソンって自分と会話するしかない。『今日は走れるだろうか』とか。自分と向き合えたのはマラソンのおかげ。全部ひっくるめて好きになった」

 近年は満足に練習ができず、レースを棄権することもあった。観客席で関係者らが静かに見守るなか、福士はすがすがしく言った。

 「走るのが楽しくてやめたくなかった。でも走れなくなったので、終わりにします!」

 セレモニーでは「ひとりずつハグをしたいけど、こういう状況なので」と自ら“エアハグ”を提案して会場全体に笑いを生んだ。

 トラック種目でも日本記録を打ち立て、女子長距離界を引っ張ってきたレジェンドの目に最後まで涙はなかった。(辻隆徳)