人は自力で立ち上がれる 津村記久子さん「現代生活独習ノート」

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尾崎希海
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 情報過多のSNS、家族とのわだかまり、取引先にいい顔をするため休日出勤を強いる上司――。大阪出身の作家、津村記久子さんの短編集『現代生活独習ノート』(講談社)は、現代に生きる私たちを疲弊させるあれこれから心を守る方法を、じんわりと提示してくれる。

 〈リフレッシュ休暇をもらったが、もはや私にはリフレッシュする気力自体が残っていなかったのだった〉

 印象的な書き出しで始まる1編目の「レコーダー定置網漁」は、入社希望の学生たちのSNSをチェックする仕事を任された「私」が主人公。

 「水道の水はもはや毒に近い」「ベージュのリップの人はAIの顔認識で60代と判定されたので実質60代」――。学生たちがSNSで共有する取るに足らない情報も、束になると受け流せなくなる。「知っておくべき」「やるべき」だと脅しをかけてくる情報の波にもみくちゃにされ、「私」は今まで送ってきた暮らしへの自信をなくしてしまう。

 「現代は選択肢が多すぎて、みんな誰かに自分の選択を肯定してほしい。だからSNSでキラキラした姿を発信して、肯定をしあって。自由なようでいて、お互い規定しあってますよね。それを見てるうちに情報にジャッジされて、責められているように感じて、疲れてしまう」

 すべての気力を失った「私」…

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