五輪でデジタル人民元をPRする中国の狙い 揺らぐユーロと日本円
北京冬季五輪は、通貨をめぐる競争の号砲も鳴らした。中国政府は五輪会場で選手らが、紙幣でも硬貨でもない「デジタル人民元」を使えるようにして金融技術の力をアピールする。第2次大戦後、米国は基軸通貨の米ドルを武器に、国際金融の秩序を支えてきた。この覇権構造は通貨のデジタル化で変わるのか。専門家に聞いた。
〈コーネル大学教授 エスワー・プラサドさん〉インド出身。国際通貨基金(IMF)の中国部門責任者を経て米コーネル大学教授。昨年、「The Future of Money」(未邦訳)を出版した。
「デジタル人民元はドルの脅威とならない」その理由は
――中国がデジタル通貨の開発を急ぐ狙いは何ですか。
「中国では、巨大IT企業アリババとテンセントがそれぞれ『アリペイ』と『ウィーチャットペイ』というデジタル決済サービスを提供しています。スマートフォンで誰でも安く簡単に使えるこのサービスが、日常の決済の場で、政府発行の通貨を押しやるように広がる状況が生まれていました」
「この2社は最近まで、自社が蓄積する膨大な決済データを政府と共有することを渋っていました。2社が経済的、政治的に力を強めることに、政府はかなり神経をとがらせています。『デジタル人民元』の開発は、民間企業がデータに独占的にアクセスするのを制限するための手段なのです」
――国民のデータを収集する体制の強化手段なのですか?
「デジタル人民元を導入すれば、政府は金融取引に関する膨大なデータを得られます。さまざまな民間決済企業のサービスを取り込むプラットフォームになれば、さらにデータが集まります。少額取引に限っては一定の匿名性を確保する姿勢を示してはいますが、現実にはあらゆる取引が追跡可能になる。中国国民の金融取引についてはプライバシーが完全になくなる、という懸念は確実に強まります」
――現在の人民元は、国際決済額に占める比率が1%余り。各国政府が保有する外貨準備の比率でも米ドルとは20倍以上の開きがあり、基軸通貨とはほど遠い状況です=グラフ参照。中国はデジタル通貨でドルの覇権に挑戦する意思を持っているのでしょうか。
仮想通貨の関連事業を禁止する一方で、暗号資産を支える技術開発は加速させる方針の中国の狙いはどこにあるのでしょうか。また、デジタルドルの導入はありえるのでしょうか?プラサド教授の知見は、記事後半で日本円の今後へも及びます。
「デジタル化は民間企業のデ…
- 【視点】
米国の金融制裁の強力さを目の当たりにしたのは、北朝鮮核問題を取材していたときでした。米国は2005年に「北朝鮮の非合法活動を助けた」として北朝鮮が使っていたマカオの銀行バンコ・デルタ・アジアを資金洗浄への関与が濃厚な金融機関に指定しました。