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シーツで拘束、迫る注射針 子どもの医療 日本の病院に足りないもの

有料会員記事フロントランナー傑作選

文・岩本美帆 写真・瀬戸口翼
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 あなたがもし、病気にかかったとき。何の説明もなく病院に連れてこられ、突然シーツで体をぐるぐる巻きにして拘束されたら、どう感じますか。何のための注射か説明もなく、「チックンするねー」のひと言で針を刺されたら、どう思うでしょうか。そんなことあり得ない? でも、子どもの治療では、よくあることです。子どもがどれだけ恐怖や混乱を感じるか、想像できると思います。

 「チャイルド・ライフ・スペシャリスト(CLS)」は、そんな子どもの苦痛を少しでも和らげる、心理の専門職です。千葉県こども病院でCLSを務める大橋恵さん(45)は、子どもの立場に立って医療行為を進め、トラウマを減らすことの重要性を訴えます。

 ――お仕事ぶりを拝見しました。検査前、恐怖から涙を流して震えていた男の子に寄り添い、落ち着かせていましたね。

 同じ検査を前の病院で受け、とても痛くてつらかったようです。「なるべく安心して検査できるようにお手伝いするね」と声をかけ、人形を使って実際の手順を説明し、検査中にゲームができるようにタブレット端末を渡しました。最初はそれどころでなく泣き叫んでいましたが、検査終盤は笑顔も出てきて、よかったです。

防護衣姿でX線撮影に

 ――検査を担当した松野大輔医師は「CLSさんがいるといないとでは子どもの様子が全く違う。いないと困る」と話していました。X線撮影にも防護衣を着て付き添っていて、驚きました。

 検査室は保護者の方が入れない場合が多いので。手術室で全身麻酔が効くまでそばにいたり、局所麻酔のときは術中一緒にテレビを見たりすることもあります。

 ――そもそも、「チャイルド・ライフ・スペシャリスト(CLS)」とは、どんな職業なのでしょうか。

 子どもの医療体験における不安を軽減する仕事です。子どもが主体的に治療に取り組めるようにお手伝いする、というのが主眼です。「病院は怖いところ」という記憶ではなく、「がんばった、生きる糧ができたところ」と思えるように。患者本人だけでなく、保護者やきょうだい児のサポートもします。

 子どもが病気とわかったとき、家族の精神的ストレスは相当に大きい。痛みや恐怖体験など、病院でのトラウマ的体験は、本人だけでなく家族にも残ります。外国の研究ですが、小児がんの治療をした10代の子ども以上に、その両親にPTSDが見られるという報告もあります。トラウマを減らすのが、CLSの役割です。

「治癒的遊び」とは

 ――人形やおもちゃなど様々な物を使いますね。

 「プリパレーション」というのですが、人形やMRI(磁気共鳴断層撮影)の機械を模した木製おもちゃ、手描きの絵本などを使い、その子に合わせてできる限りわかりやすく医療行為について説明します。本物そっくりの医療玩具を使って、自分が受けたのと同じ治療を人形に施す「治癒的遊び」で、気持ちを整理したり感情を表現したりする子も。治療のやり方について、子どもと一緒に「作戦会議」をすることもあります。

 痛みを伴う治療のときは、キラキラと光るおもちゃやパズル絵本で気をそらします。医師からの事前説明の場にも同席します。

 ――なぜCLSに?

 私は先天性の二分脊椎(せきつい)で小さい頃から病院通いをしていました。

 子どもの頃を米国で過ごした…

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