無名の大学生を取り巻く環境は、一夜にして様変わりした。
堀島行真(いくま)は2017年の世界選手権で男子モーグルを制した。当時19歳。翌年には平昌五輪が控えていた。以降、テレビをつけても新聞を開いても、自分は五輪の金メダル候補に挙げられていた。
「本当に、たまたま勝っただけなのに。宝くじで大当たりを引いたけど、五輪でもう一度大当たりを引かなきゃいけない感覚。そんなの無理だって……」。周囲の期待と、実力とのギャップに思い悩んだ。
「10%しかない優勝の確率を、どうにかして上げたかった。期待に応えないといけないから」
練習のしすぎで腰やすねを痛め、満足なトレーニングを積めなくなった。平昌のスタート台に立ったときには心身ともに疲れ切っていた。決勝で転倒し、11位に終わった。
「心が折れてしまった」
「もし転倒したら?」 返ってきた答え
引退も頭をよぎった。でも…