マイナンバーカード、リスクと利便性のバランスは 導入6年

聞き手・浦島千佳 仲川明里
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 国民一人ひとりに12桁の個人番号を割りふるマイナンバーの導入から6年。国は顔写真つきマイナンバーカードの普及もめざしていますが、情報漏洩(ろうえい)などへの不安は根強いようです。どこまで利活用すべきなのか。リスクと利便性のバランスは。読者のみなさんと考えます。

「安全面は『堅牢』、新たな活用の壁にも」 筑波大産学連携教授 登大遊さん

 コロナ下の在宅勤務を支援するため、自分が所属する独立行政法人情報処理推進機構(IPA)とNTT東日本で、「シン・テレワークシステム」を開発しました。自宅から会社のパソコンにリモートアクセスできるシステムです。その際、マイナンバーカードで認証できるようにすることになり、テスト用に自分がカードの交付を受けました。ほかにあまり使う機会はありませんけど。

 マイナカードを使ったろくなアプリがないように思っていたので、がんばって作ったけど、あんまりカード認証は使ってもらえませんでした。カードリーダーがいるのが不便だったのだと思います。

 マイナンバーにひもづいている情報には大変価値があります。ただハッカーのうち、愉快犯は他人の開発したツールを使っており、自治体同士をつなぐ専用回線「LGWAN」や、インターネットやLGWANから分離されているマイナンバー用の基幹システムを破れないでしょう。

 金もうけ目的の人や、日本と緊張関係にある外国勢力やテロリストなど、恐れるべきハッカーは大概が海外からです。しかし行政の閉域系システムに侵入するのは日本固有の事情に精通していないと困難でコストが高く、ほかの方法で目的を達成する方が簡単ではないかと思います。

 盗まれれば実害はあると思いますが、日本は大変まじめにやってきているので、マイナンバーのセキュリティーもガチガチで、今は見かけ上は堅牢だと言えます。

 一方、新しいことができないという損失も払っていると思います。落ちてはいけないシステムを作るとき、開発者は何かあった場合に「新しいことをやったからだ」とたたかれるのを恐れます。イノベーションが生じにくくなってしまうのです。

 新しいものを作ろうとすると、予期せぬ事故が起きます。このリスクは最小化しないといけないですが、ゼロにしちゃいけない。リスクをゼロにすることは、新しいことをすべて禁止するということですから。

 豊かになった社会で、生活を楽にするとか、仕事の効率化とかいうスローガンはもう古いんだと思うんですよ。進化を続けるには「面白さ」が必要ではないでしょうか。(聞き手・浦島千佳

「行政サービスが先行、広がりにくく」 国学院大専任講師 羅芝賢さん

 韓国では、学校の入学時も銀行口座をつくるときも「住民登録番号」を使い、番号がない生活は想像もできません。しかし、2005年に来日して携帯電話を契約しようとすると、番号を書く欄がない。驚きました。日韓でなぜ違うのでしょう。

 第2次世界大戦後の韓国では、食糧を配給するためなどの理由で米軍が「登録票」という身分証明書を導入しました。冷戦期には、登録票を始めとする様々な身分証明書が、反共イデオロギーと結合して韓国の国民を再定義するのに利用されました。韓国の人々は、食糧の配給を受け、粛清を免れようと身分証明書による住民管理を受け入れたのです。

 1960年代にこうした身分証明書が住民登録番号と住民登録証として法制化・制度化されます。韓国で公的医療保険などの行政サービスが拡大したのは、もっと後でした。

 一方、日本には伝統的に戸籍を基盤とする住民管理の仕組みがあり、医療保険や公的年金、運転免許制度はそれぞれの番号制度を形成してきました。マイナンバー制度の導入はその後、2016年のことです。

 懸念されているのが、プライバシーの問題です。60~70年代の「統一個人コード」など、かつての番号制度の失敗でも、プライバシー意識の高さが理由とされてきました。しかし、この説には限界があります。

 プライバシーは国によらず普遍的な価値のはず。では、プライバシー保護という主張が、日本で統一的な番号制度の導入を妨げるほどの影響力を発揮したのはなぜか。韓国と違い、日本の人々はすでに国家に包摂され、様々な行政サービスを受けている状況でした。国民番号制度の広がりが国によって異なるのは、行政サービスの拡大との順番の違いが大きいのではないかと考えています。

 ポイント付与などの施策を講じなければマイナンバーカードの取得や利用が広がらないのも、こうした歴史的経緯を考えれば理解できます。だからこそ、カードを一気に普及させて行政や市民生活を劇的に変えようとするのではなく、日々の暮らしのなかで少しずつ改善していくことをめざす必要があります。行政の助けが必要なのに、適切なサービスを受けられていない人々に目を向けることが、その第一歩になるでしょう。(聞き手・浦島千佳

「メリットや安全性、説明していきたい」 デジタル庁

 マイナンバーカードの交付数は1月26日時点で累計5269万枚で、国民の約42%の数に相当する。国は2022年度末までに、ほぼ全国民に行き渡らせることをめざす。

 マイナンバーだけでなく、さらにカードを広めたい狙いは何か。

 デジタル庁の担当者は、カード裏面のICチップに埋め込まれた情報で本人確認ができる「電子認証」をあげる。カードを持っていれば、コンビニでの住民票の写しや印鑑登録証明書の取得、確定申告などの電子申請サービスを利用できるが、いずれも電子認証を利用したものだ。

 運転免許証など顔写真つきの本人確認書類と、スマホで撮影した自分の顔写真を送ればオンライン上で本人確認ができる「eKYC(電子本人確認)」と呼ばれる仕組みはすでにあるが、偽造チェックのために本人確認書類を様々な角度から撮影したり、文字が認識できなかった場合に送り直したりする必要がある。

 マイナカードは交付時に行政機関で本人確認がされていることなどから「厳格な本人確認が行われたものとして扱っている」(担当者)といい、複数の画像を送る必要はない。書面でのやりとりに代わり、電子認証の仕組みが広がれば、官民ともに事務の効率化が進み、民間のIT取引の活発化にもつながるという。

 カードを紛失した場合、24時間対応のコールセンターで、一時停止措置をとることになる。他人が入手して悪用しようとした場合も、暗証番号を3回間違うとロックされる上に、顔写真つきのため「悪用は難しい」というのが国の見解だ。また、ICチップには税や年金など機微な情報は記録されていないという。

 国は24年度にも運転免許証と一体化するなど、カードの活用を加速したい考え。しかし、カードのねらいが国民に伝わり、安全性についても信頼をえられているだろうか。

 デジタル庁の担当者は「マイナンバー制度やカードに対する誤解が払拭(ふっしょく)されるよう、メリットや安全性について、わかりやすく様々な手段で説明していきたい」としている。(仲川明里)

「複雑すぎる設定」「もっと使える場を」

 アンケートから一部を紹介します。アンケート結果はhttps://www.asahi.com/opinion/forum/150/で見ることができます。

●メリットを感じない

 地方自治体でマイナンバーの実務に携わっているが、まったくメリットを感じないし、逆に業務量が増えて煩雑化している。パスワードを複数設定しなければならないなど、複雑すぎて一般の人には分かりづらいと思う。(千葉県 50代男性)

●高齢化なのにカードは疑問

 マイナンバーは行政の管理事務上やむを得ないと思うが、マイナンバーカードは高齢化を前に疑問しかない。ポイント付与も不公平な施策だと思うし、国民をつるような品性の欠如が残念だ。(岩手県 60代女性)

●国の説明足らず過小評価

 マイナンバーを導入した理由が国民に伝わっていないから、情報漏洩リスクを懸念したり利便性を過小評価したりしてしまう。国が丁寧に説明することが利活用推進につながるのでは。(鹿児島県 40代男性)

●接種証明は役立った

 新型コロナワクチン接種証明アプリを入れたときだけは持っていてよかったと思ったが、それ以外は出番がない。もっと使えるようにしてほしい。(東京都 30代女性)

●デメリットを感じない

 家族全員カードを持っており、私と夫は確定申告に使い、子どもたちは住民票をコンビニで取っている。身分証明書にもなり、デメリットは特に感じない。(広島県 60代女性)

●行政サービスを通知して

 行政サービスは複雑で、どのサービスを受けられるか把握が難しい。マイナンバーに資産や就労状況などをひもづけ、受けられるサービスを通知してほしい。(京都府 40代男性)

●カード落とすリスク

 転勤が多く、コンビニで住民票が取れるのが非常に助かった。一方で落としたときのリスクを考えると、あらゆる個人情報がひもづくことへの心配もある。(北海道 20代男性)

●反対する人は漠然とした不安から

 以前から大多数の人の収入は国に把握されている。反対している人は漠然とした不安で反対しているように見える。(千葉県 30代男性)

●台湾を見習って 

台湾によく行くが、ネットでさまざまな行政手続きができるようになっている。日本も早くそうなってほしい。(大阪府 50代男性)

●情報漏洩リスクなければ便利 

どうしても、国も想定しないリスクが潜んでいるのではないかと疑ってしまう。ただ、情報漏洩のリスクがなければ国民にとって便利なものだと思う。(京都府 10代男性)

●カードにする必然性に疑問 

マイナンバーは行政のデジタル化のために必要な面はあると思うが、カードにする必然性はまったくないのでは。(神奈川県 60代男性)

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アンケート「『ヤングケアラー』どう思いますか?」をhttps://www.asahi.com/opinion/forum/で募集しています。