トヨタ系列の車検不正、なぜ続いた? 組織が見失ったものとは?

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山下寛久、高絢実
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 トヨタ自動車の系列販売会社の10人が8日、不正に車検を通した容疑で書類送検された。

 愛知県警が認定した、主な不正の手口は次のようなものだ。

 四輪駆動車の速度計を検査しない▽前照灯を水でぬらし、一時的に光度を高くする▽運転席に人が乗らない状態で前照灯を検査▽車内の荷物をおろさずに検査▽排ガスの一酸化炭素濃度を測定しない――。

 なぜ、こうした不正が続いたのか。

「存在価値、自ら破壊」

 組織ガバナンスに詳しい久保利英明弁護士は「企業の存在価値を自ら破壊するような話。上層部の責任も大きい」と話す。

 車検に携わる従業員は、本来は正確な作業をすることで評価されるべきなのに、それが組織内で見失われていたとみる。

 「不正を不正と思わない、楽すればいいといったような同調圧力や文化があったのではないか。官庁や捜査機関に頼らず、自分たちで払拭(ふっしょく)するしかない」

 芝浦工業大の古川修(よしみ)名誉教授(自動車工学)は「顧客に対し、車が安全だと偽っている。倫理の問題だ」と憤る。

 日本車の品質は世界最高ともいわれるが、実際には車検によって故障が未然に防がれている面も大きいという。自動運転や運転支援システムなど自動車の技術が高度化する中で、定められた検査項目を守る重要性は増していくと指摘する。

 整備士として勤務経験がある社会保険労務士の本田淳也さんは、人手不足や業務量の多さが背景にあると感じている。ネッツトヨタ愛知なども8日のコメントで、不正車検の要因を「現場が高負荷であるにもかかわらず、成果を重視するあまり、結果的に時間を優先し、正しい作業・検査を省くことになった」とした。

 業界団体の調べなどによると、車の保有台数は年々少しずつ増え、2020年度には約8208万台だったのに対し、自動車の整備要員は約40万人で横ばい。整備士を目指す人も減っている。本田さんによると、多くの企業が「働き方改革」に取り組み、整備士や検査員を呼び込もうとしているが、「かけ声先行」の職場もあるという。

「誰も適切にやってない」

 同じ業務量のまま労働時間を削減しようとすると、作業工程を省くことにつながりやすい。長年「手抜き」を強いられ、意見も通らない状態だと、次第に責任感がまひしてしまうという。「現場の声を聞き、機器の改善や業務削減などで負担を減らすことが大事」と話している。

 愛知県警は8日、法人としての「ネッツトヨタ愛知」(名古屋市昭和区)と、販売店「プラザ豊橋」(同県豊橋市)の元副店長と整備士の男性計10人を道路運送車両法違反などの疑いで書類送検した。

 10人はいずれも容疑を認め、「時間を短縮するためだった」「誰も適切な方法でやっていない」などと話しているという。

 ネッツトヨタ愛知は同日、親会社の「ATグループ」(名古屋市昭和区)と連名で、「信頼を裏切ることになり、改めて心から深くおわびします」とホームページでコメントした。

 交通捜査課によると、10人は2018年12月~21年1月、プラザ豊橋店に持ち込まれた車の法定の点検や整備、検査を正しく行わず、うその保安基準適合証を作成。国土交通省の中部運輸局愛知運輸支局に提出するなどし、不正に車検を通した疑いがある。

 県警の調べに、元副店長は「適切な検査方法は時間がかかる。新しい車はすぐには壊れないし、不具合も出ない」と説明。ほかの整備士らも「同じ職場の検査員も不正をしていた」などと話しているという。

 運輸局の監査では、プラザ豊橋店はこの時期に5158台の車検をし、すべてで不正があった。県警が立件したのはこのうち11台分で、前照灯の検査を本来とは違う手順・方法で実施したり、四駆車の速度計の検査を省いたりした疑いがある。

 運輸局によると、適合証の交付には指定整備工場の責任者らの決裁が必要。ネッツトヨタ愛知の説明では同店の店長が責任者だったが、県警によると、店長は検査の省略などについて「知らなかった」と話しているという。不正への関与をうかがわせる事情が認められず、立件を見送った。

 運輸局は昨年3月、同店の指定自動車整備事業の指定を取り消した。トヨタ系販売会社では、同店を含めて15社16店舗で計6659台の不正車検が発覚している。

記事後半では、プラザ豊橋店で勤務した経験のある男性の証言も紹介します。

 朝日新聞の取材に応じたネッ…

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