死にたくないとのたうち回る姿も「役に立つ」 86歳プログラマー

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構成・高重治香
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 約束の時間に慣れた様子でZOOM画面に現れた若宮正子さん(86)。「普通のおばあさんですからね」といいますが、81歳で初めて作ったスマホゲームが注目され、米アップル社のイベントに、政府有識者会議にと、引っ張りだこです。デジタルデビューをためらう同世代の背中を押す一方、「若い人と年寄りの分断」が気になるそうです。認知症の当事者の困り事を社会へと開く活動をする青木佑さん(32)、人工知能を使い、働く人の体調予測に取り組む牟田吉昌さん(28)が、若宮さんと語り合いました。

 青木 認知症のある方々の声を聞き、ご本人の声を社会に届ける仕事をしています。昨年は「認知症世界の歩き方」という本の執筆に関わりました。認知症になる年齢には幅があります。若い方だとスマホに慣れているので、鍵を回す動作が難しくなったらスマホで操作できるスマートロックを使うなど、テクノロジーを活用しています。若宮さんはご自身でもスマホのアプリを作っていますが、これは便利という商品などはありますか。

 若宮 話しかけるだけで家電を操作したり質問に答えたりしてくれるAIスピーカーは、複雑な操作が必要ないのでおすすめです。私も部屋の隅に置いています。

わかみや・まさこ 1935年、東京都生まれ。高校卒業後、三菱銀行(当時)勤務。定年と母の介護を契機にパソコンを始め、自宅でシニア向け教室を開く。81歳で初めて作ったスマホアプリ「hinadan」が話題になり、米アップル社の世界開発者会議に招待された。デジタル庁など政府の有識者会議構成員も。著書に「老いてこそデジタルを。」ほか。

 若い人が年寄りのためのデジタル製品を作ってくれるのですが、年寄りの気持ちをわかってくれていないなと感じることがあります。田舎にいる自分のおじいちゃんおばあちゃんでいいので、もっと年寄りの意見を聞いて作っていただければありがたいのになと。若い人と年寄りが分断されているなと思います。

 牟田 我々と高齢者の方とで、見えている景色が違うのですね。

年寄りも勉強しないと

 若宮 年寄りも「老いては子に従え」ばかりでなく、もっと勉強しないといけないとは思います。人間はどうしようもなくアナログです。老人ホームのおばあちゃんも、ヨチヨチ歩きのお孫さんもアナログだけど、デジタル機器でつながればビデオチャットができる。デジタルは、アナログとアナログの間に架かる橋だと話すと、デジタルを遠ざけてきた高齢の人も納得してくれます。いきなりマイナポータル(マイナンバーカードを使って閲覧できる個人向けサイト)の話なんてしてもダメ。

 青木 私の祖母はスマホに興味はあっても、メールやSNSの仕組みが分からないのが怖いようです。

パソコンの中には悪魔が3匹

 若宮 隣の奥さんのメールと地球の反対側にいる孫娘のメールが、どうして同じ時間で着くの?と。わからないと魔法みたいで不安ですよね。私にしても、ある日突然ファイルが消えるなど不可解なことはあって、パソコンの中に悪魔を3匹くらい飼っているつもりでいます。日本ではITリテラシーを高めるというと、年寄りにはスマホの操作手順を教える、学校ではプログラミング教育、など小手先の方法になりがちです。ITの素晴らしさや、そもそも情報とは何か、自分の情報を大事にしなければならないなど、基本的な姿勢から教えるべきだと思います。

 牟田 若者と高齢者がもっとつながるために、若者側はどうすればいいでしょうか。

 若宮 サービスの開発者はどうしても「よろず丼」を作るのでアナログの人にはわけがわからなくなります。シラスならシラスだけの丼にしたらいいと思います。

 ただ、アナログの人はどうし…

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