揺れるアール・ブリュット 「つくること」の根源を問う展覧会
滋賀県立美術館(大津市)の「人間の才能 生みだすことと生きること」展は、同館のコレクションの柱の一つである「アール・ブリュット」にフォーカスした企画展だ。プロの芸術家ではない作り手たちの自由で豊かな造形表現に着目することで、人類にとっての芸術、「つくること」の本質を問う。
日本のアール・ブリュットの代表作家たちを中心に、総勢17人の作品を紹介。アール・ブリュットの概念を相対化するような作品も合わせて展示し、「つくること」の本質を問う。3月27日まで。祝日を除く月曜と、3月22日休館。
アール・ブリュットは、フランスの画家ジャン・デュビュッフェが20世紀半ばに唱えた概念で、仏語で「生(なま)の芸術」という意味を表す。それは当時の硬直した美術制度への異議申し立てとして、純粋で無垢(むく)な創造行為に真の芸術的価値を見いだそうとする言葉だった。
まるで現代版の「百鬼夜行」
日本では一般に「専門的な美術教育を受けていない作り手による独自の造形表現」などと説明され、中でも知的障害や精神障害のある人たちの作品を紹介する際に用いられる。本展の前半部では、国内外で注目を集める日本のアール・ブリュットの作家9人を紹介し、その代表作を並べた。
会場に入ってまず目にとまるのが、ユーモラスな表情をたたえた異形の生き物たち。ベネチア・ビエンナーレへの出品経験もある、澤田真一のオブジェ作品だ。県内の福祉施設の作陶工房で制作されたトゲと線刻に覆われた異様なフォルムは、原始宗教の神像のようでもあり、どこか聖性を感じさせる。
対して、全長14メートルにも及ぶ鵜飼(うかい)結一朗の絵巻物風の平面作品は、その緻密(ちみつ)な描き込みぶりに思わず目を見張る。猿、竜、骸骨といった無数のキャラクターが画面内を大行進する様子はまるで現代版の「百鬼夜行」。作品は73・5センチ×82・5センチの画用紙を17枚連結させたもので、現在も制作は続いているという。
独創的なイメージと、繊細な手つき。その手法はいずれも極めてユニークだが、つくることへの「真摯(しんし)な欲求」という点で共通している。制作風景を収めた映像には、誰に頼まれるでもなく、評価を求めるでもなく、生活の一部として黙々と造形に打ち込む姿が映り込む。
芸術の良し悪しを決めるのは誰か
一方、後半部では従来のアール・ブリュットの枠を超えて、造形行為や芸術の根本を問う作品が並んだ。
ポーランドのアルトゥル・ジ…
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