第43回きょうだい、いとこからの性暴力がわかったら 専門家に聞く

編集委員・大久保真紀
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 きょうだい間やいとこからの性暴力はどのように起こるのか。どんな対応をすればいいのか。臨床教育心理学が専門で、民間団体でも被害者支援をしている大阪大学の野坂祐子(さちこ)准教授(48)に聞いた。

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 きょうだい間やいとこからの性暴力は、表に出にくいだけで、実際にはかなり多いと考えられます。きょうだいからの性暴力は、被害を受けた子どもが「性被害」と気づかないまま続いてしまうことがあります。いとこの場合は、親族との関係性が絡んでくるため、さらに被害を訴えにくいのが実情です。

子どもたちの心身とその後の人生を脅かす性暴力について考える企画「子どもへの性暴力」第6部は、子どもたちの間で起こる性暴力について取り上げます。きょうだい間やいとこからの性暴力を受けたとき、子どもはどんな思いを抱えるのか。性被害を受けた子どもにどのように対応していけばいいのか。親として、大人として、社会として、どんなことを知っておけばいいのでしょうか。

だれにも言えないつらさ、成長や発達に悪影響

 きょうだい間の性暴力が起こる背景には、多くの場合、家庭でのネグレクトがあります。世話をしない育児放棄だけでなく、子どもの気持ちを無視する情緒的なネグレクトも含まれます。親が多忙で余裕がなく、子どもを見守れない状況もあります。

 そうした場合、さびしさを抱えるきょうだいが寄り添って生活し、その中で性暴力が起こります。初めのうちは、一緒に遊ぶことがおもしろく、心地よいと感じたり、秘密を共有する高揚感が伴ったりしても、次第に行為がエスカレートしていき逃げられなくなります。

 もちろん、最初から恐怖や苦痛を感じたり、嫌悪感が湧いたりすることもありますが、きょうだいだからこその親しみの情もあり、被害を受けた子どもはさまざまな気持ちの間で引き裂かれそうになります。そうした混乱がきょうだい間の性暴力の特徴と言えます。だれにも言えないつらさを抱え続けることが、子どもの成長や発達に悪影響を及ぼします。

 子ども間の性暴力は、遊びのふりをして始まることが多く、加害をした子どもも「相手は嫌がっていなかった」「自分は無理強いなんてしていない」と認識しています。事実を知った周囲の受け止め方も同じで、被害が明らかになっても、親が被害を受けた子どもがそんなに傷ついているとは思わないということもあります。

 きょうだいからの性被害がわかった後に、大人が「怖かったね」と一方的に声をかけると、被害者を苦しめることになりかねません。

気持ちをそのまま受け止める

 すでに述べたように、被害者の心情はとても複雑です。「怖い」と思えなかった自分を責めたり、相手のすべてが嫌いなわけではない自分をわかってもらえないと感じたりして、性被害を受けたことを認められなくなってしまいます。

 周囲が子どもの性被害を知ったときには、被害の訴えを信じてきちんと聴くことが何よりも重要です。被害者の気持ちや状況を勝手に決めつけてはいけません。どんな気持ちだったのかをそのまま受け止めます。

 もし、幼い子どもが「おもしろかった」「興味があった」と感じたとしても、それはごくふつうのことです。行為の意味がわからないのですから、同意したわけではありません。相手の行動はルール違反だったことを、丁寧に説明していくことが大切です。

 被害を受けた子どもを責めるのではなく、打ち明けてくれたことを十分にほめながら、これからの安全な生活に向けた話をわかりやすく伝えるといいと思います。

 加害者が兄のときは、親に期待をかけられた兄が立場を利用して加害をする場合や、親が妹をひいきしていると感じて嫉妬し、妹を痛めつけようと加害をする場合などがあります。そもそも、家庭できょうだいの扱いが違ったり、差別があったりすることが多いです。

 身近な関係性の中での性暴力は、性的な画像を見せる、体を見る、性器に触る、性器を入れるというように、徐々に段階的に進むのが一般的です。

 また、お菓子をあげたり、ゲームで遊んだりするご褒美によって、少しずつ手なずけていく「グルーミング」という方法が用いられます。それによって被害者は断りにくく、被害を打ち明けにくくなります。突然襲われて身がすくむという状況とは異なる逃げにくさがあります。

理解してくれる人がいるかどうか

 また、家庭では、親が「お兄(姉)ちゃんの言うことを聞きなさい」などと言うことも多く、ふだんからの上下関係によって、年少児が被害に遭いやすくなるともいえます。

 いとこからの被害は、きょうだい以上に事実がもみ消されてしまいがちです。我が子の被害がわかっても、問いただすべき相手が親戚となると、親はなかなか立ち向かえません。ときに、親戚づきあいをやめるほどの覚悟が必要になるからです。

 そのため、子どもも、いとこからの被害はなかなか親には言えません。打ち明けたら、親を困らせるのがわかっているからです。同時に、言えないことで親に秘密を持っているという罪悪感も抱きます。

 きょうだい間であれ、いとこからであれ、その性暴力だけが単独に存在するのではなく、家族や親族の中でネグレクトや虐待、主従関係といったいろんな形の暴力が重層的にあり、そこで子どもへの性暴力が起こりうると認識する必要があります。家庭内の性暴力が、世代を超えて脈々と続いていることも珍しくありません。

子は親の反応にさらに傷つく

 大人自身が育ってきた家庭や生活環境にさまざまな暴力があると、「それぐらいのことはよくあるもの」「自分は我慢してきた」などと考えがちです。大人が傷ついたままでは子どもを守ることはできません。性被害は、受けた暴力だけでなく、その後の周りの対応が心の傷に大きく影響します。被害者にとって自分を信じて理解してくれる人がいるかどうかが重要です。

 我が子が性被害を受けたという事実を受け止めるのは、親にとっては難しいことです。ショックを受けるのは当然です。悲しみや心配のあまり、つい「どうして逃げなかったのか」と子どもを叱ってしまうこともあります。早く元気になってほしくて「忘れなさい」と声をかけてしまう親もいます。我が子の性被害は親自身にとってもなかったことにしたいほどのつらい出来事ではありますが、子どもはそうした親の反応に、さらに傷ついてしまうことを知っておいてほしいです。

 家族や親族の中で性暴力が起きたときは、家族も支援を受けるタイミングだと考え、児童相談所などの専門機関に相談してください。被害者を守るだけでなく、加害をした子どもへの教育やケアをする上でも、家族だけで抱え込まないことが極めて重要です。

 「自分が悪かった」と自責の念に苦しむ被害者の子どもには、何度でも「あなたのせいではない」と丁寧に言い続ける必要があります。「言ってくれたおかげで、こうしてサポートを受けられる」「加害した子どももルール違反だと学べる」など、被害者の勇気ある行動が社会的にも価値のあることだと伝えることも回復に役立ちます。

 親が本気で自分を守ろうとしてくれたと思えた子どもは「自分は大事にされる、価値のある子だ」と感じることができます。親にとって、家族や親族の中で起きた性暴力に対処するのはとても負担が大きいことです。それでも、結果がどうであれ、親が本気で自分のために動いてくれたかどうか、子どもはよく見ています。

 社会の中にあるさまざまな暴力やハラスメントに鈍感だと、子どもの性被害に気づくことはできません。子どもへの性暴力に取り組んでいくには、大人自身が身近な暴力やパワーの使い方にも敏感になることが欠かせないと考えます。(編集委員・大久保真紀

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