異議あり 日本女子大名誉教授・岩田正美さん
「最後の安全網」と言われる生活保護制度を「解体」し、社会保障全体の中で抜本的に見直すべきだ――。貧困研究の第一人者がそんな提言を著書にまとめて公表した。戦後日本の「最低限度の生活」(ナショナルミニマム)を保障してきた制度を評価し、その重要性を説いてきた学者がなぜ? 「解体」提言の真意を聞いた。
八つの扶助 「単品」では使えず
――コロナ禍のなかで「生活保護は権利」と国も呼びかけ、利用すべき人は増えています。なぜいま「解体論」なのでしょうか。
「これまで私は、生活保護の意義を理解してもらおうとしてきました。あえて『解体』を言うのは、制度が劣化して、『いま貧困状態にある』人が利用できていないからです。コロナ禍が深刻化して2年近くになりますが、保護人員、保護率は上昇していません。『安全網』として頼れる制度なら、はるかに多くの人が利用しているはずです。もうだめだ、解体して抜本的に見直すほかないと考えました」
――それほどまでに生活保護が「使えない」のは、なぜでしょうか。
「生活保護の根底には、戦前から続く貧困救済の考え方が残っています。最後の最後に……という点が強調され、生活費に事欠いたとき気軽に使える制度ではありません。預貯金も資産もなにもかも失って、万策尽きた困窮者が申請し、衣食住をまるごと保障する仕組みです。生活保護には、生活扶助、住宅扶助など八つの扶助がありますが、これらをニーズに応じて『単品』で使うことはできない。こうした制度のあり方が根本的な問題だと思います」
――社会保障は、保険料を負担してサービスを受ける社会保険を中心とし、経済的な理由で自己負担が難しい場合などに、税を財源とする生活保護でカバーする構造だと思います。その位置づけに課題があるのでしょうか。
「日本の社会保障は、医療・介護・年金といった社会保険を中心に発展してきました。しかしそれを補うはずの生活保護は、あまりに遠い、特殊な位置に置かれている。非正規雇用の増加などで『皆保険・皆年金』からこぼれ落ちる人が増えているのに、そうした人が生活保護をきちんと利用できていません」
――取材をしていると、生活保護への偏見、スティグマ(烙印(らくいん))が最大の壁になっていると感じます。
「そのスティグマも、『最後の……』という制度のあり方と深く関わっています。なにもかも失った困窮層が対象なので、どうしても家賃や公共料金、税金の滞納、多重債務などの問題を抱える人が多くなります。そのため、社会の中心から外れた人が利用するという負のイメージをぬぐいさることが難しいのです。本来は、そこまで追い詰められる前に、使いやすい所得保障制度をおいておく必要があると思います」
生活保護制度の「解体」を提言する岩田正美さん。では、どのような制度設計を考えているのでしょうか。記事の後半では、失業者への支援策や、住宅扶助のあり方を考えます。
――八つの扶助をどう「解体」するのでしょうか。
「八つの扶助は、生活扶助以…
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