天然酵母いわなみ家 岩波聡子さん 古民家で地域に根ざすパン店

飯島啓史
[PR]

 田畑と山に囲まれた住宅街にある築100年の古民家。中に入ると、パンのいい香りに包まれた。テーブルにはしっかり焼き色のついたベーグルやカンパーニュがところ狭しと並ぶ。

 福島県会津美里町で地元住民らに人気のパン店「いわなみ家」。店主の岩波聡子さん(43)は週2日、170個ほどのパンを一人で焼き上げる。

 こだわりは、地元産のブドウやリンゴなどで作る自家製の天然酵母だ。イースト菌で作る普通のパンの発酵時間は1~2時間だが、天然酵母のパンは8~10時間もかかる。時間をかけてゆっくりと発酵させることで、小麦の味わいが引き立つという。焼くと外側はカリカリで、中の生地がしっとりとやわらかいパンが出来上がる。

 「パン作りで地域に貢献したい」という岩波さんが会津美里町に家族で移住したのは2019年。古民家を店舗兼住宅として買い取り、土間を工房に改装してパン店を始めた。

 同町は冬になると雪が降り積もり、白鳥が鳴く。春にはソメイヨシノの桜並木が咲き誇る。そんな土地柄にほれ込んだ。幼稚園児だった娘2人に、自然を身近に感じながらのびのびと育ってほしかった。

 開店前は「コメどころの会津でパンは受けない」と言われ、不安もあったが、開店後は「こんな食感のパンがあるなんて!」と口コミで評判になり、開店30分で完売する人気店になった。

 岩波さんは福岡県出身。新聞社でカメラマンとして働いていたが、自宅で趣味のパン作りに没頭するうちに「カメラより好きになってしまった」。入社9年目で辞表を出し、退職金をはたいて東京都内のパン職人養成学校に入学。パン店で修業も積んだ。

 14年、同じ新聞社のカメラマンだった夫の友紀さん(45)の転勤で福島へやってきた。福島市の社宅で開いたパン教室で、原発事故で避難中の主婦たちに出会った。つらい体験をした人たちが、パン教室では楽しそうに会話しながら作業に没頭。その様子にふれて、「パンづくりを通じて人を笑顔にしたい」との思いを新たにした。

 その後、友紀さんが写真家として独立したのを契機に同町に移住。開店当時から開いていたパン教室はコロナ禍で中断しているが、仲間とパンを売るマーケットを開くことを計画中だ。

 コロナ禍が落ち着いたらパン教室を再開したり、お客さんにお茶を出すスペースを作ったりしたいという。「パンを通じて、地域の人たちが交流できる場所を作りたい」(飯島啓史)

     ◇

 いわなみ・さとこ 福岡県出身。大学卒業後に新聞社のカメラマンとして9年間勤務。退職後、都内のパン職人養成学校とパン店で1年ずつ修業。2014年から福島市でパン教室を主宰。19年に会津美里町に移住、築100年超の古民家でパン店「いわなみ家」とパン教室を開く。冬季は配達販売のみ。