「かぎろひ」のロマン、宇陀で人麻呂の見た光景よ再び

篠原大輔

 オシドリの「はなくいどり」は朝日新聞奈良総局の公式キャラクター。正倉院宝物にも描かれた吉祥文様です。花をくわえて、最新のニュースや身近な話題を求めて県内を飛び回ります。

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 はなくいどり 2月11日に奈良県宇陀市で「第50回かぎろひを観(み)る会」があったんだって?

 A そうそう。宇陀市大宇陀中庄の「かぎろひの丘万葉公園」に、朝5時から県内外の約150人が集まったんだ。たき火を囲んで待っていると、東の空がうっすら赤みを帯びてきた。高見山の稜線(りょうせん)が雲に隠れていたりして、理想的な美しさからすると8割ぐらいの感じだったそうだよ。

 は そもそも「かぎろひ」って何なの?

 A 万葉集柿本人麻呂のこんな歌があるんだ。

 東(ひむがし)の野に炎(かぎろひ)の立つ見えてかへり見すれば月傾(かたぶ)きぬ

 人麻呂は軽皇子(かるみこ)(後の文武天皇)のお供で朝廷の狩り場だった宇陀を訪れて、夜明けの情景をこう詠んだんだ。

 は ふーん。それで。

 A かぎろひの解釈には諸説あるんだけど、画家の中山正実(1898~1979年)は西に傾く「月」との対比で「太陽」の光と考えたんだ。

 そして戦前、この歌を主題にした壁画を制作するのにあたり、東京帝大や東京天文台に天文学的な考証を依頼したんだって。地理や歴史の考証も踏まえ、692年の旧暦11月17日に詠まれた歌で、かぎろひは「日の出の1時間ほど前に東の空に現れる最初の光明」と結論づけた。

 歌を詠んだと推測した丘で山の高さと月の位置の関係を調べた結果、「東の野」にかぎろひが現れたとき、振り返ると月が西に傾く光景が見られるのは旧暦11月17日との記述がある。

 完成した壁画「阿騎野の朝」はいま、宇陀市中央公民館に飾られているんだ。

 は それで、同じ光景を見ようとイベントが始まったんだね!

 A そういうこと。1972年12月25日に、「観る会」が始まったんだ。そこから毎年開催されてきた。

 は 毎回のように人麻呂の見た景色が広がるの?

 A いやいや、それがなかなか難しいんだ。宇陀市観光課によると、「観る会」のときに美しいかぎろひが出現したのは3回だけで、今回のように雲がかかったものを含めてもわずか9回しかない。万葉集人気でピーク時には1000人以上いた参加者も、どんどん減ってしまった。

 は どんな気象条件がそろったら見られるの?

 A 凍えるほど寒く、東の稜線に雲がかからず、大気が少し湿気を含んだときに現れるそうだよ。

 は へえー。参加者が減る一方だとイベントの存続も難しくなるよね。

 A それで第50回の節目となる2021年は「2本立て」にしたんだ。旧暦11月17日にあたる12月20日をプレイベント、より好条件が整いやすい今年の2月11日に本番というね。今回は久々に「8割程度」のかぎろひが見られたから、「2本立て」作戦は成功と言っていいんじゃないかな。

 は 長らく「観る会」に関わってきた人はどんな思いなんだろう。

 A 30年ほど携わっている「宇陀市観光ボランティアガイドの会」の藤本勝也(まさや)会長(63)は「私自身は旧暦の11月17日にこだわってます。人麻呂が見たのが1300年前でしょ。たった50年ぐらいで何度も起こるはずがない。かぎろひを見ることより、みんなでこの日に集まっていにしえをしのんで、語り合うのがええんです。それが、かぎろひのロマンやと思ってます」と話してくれたよ。

 は 見えなくてもロマン、かあ~。

 A とりあえず次の「観る会」に参加してみない?

 は キャー、寒い寒い。考えておくよ。(篠原大輔)