古美術、手に取ってこそ 鎌倉の自宅ギャラリーから発信

織井優佳
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 【神奈川】触るのがはばかられる古びたお宝も、しまい込まず手に取ろう。そんな古美術の楽しみ方を提案するギャラリーが、鎌倉の奥まった一角に誕生した。町中に数点を持ち出し、見て触れて感想を言い合う鑑賞会も定期的に開催。人の手から手へ渡ってきた品々が経た年月に思いを寄せ、暮らしの中で堪能したら、大切に次へ受け継ぐ。それが古美術の魅力だという。

 鎌倉駅前の会員制図書室で今月、古美術の鑑賞会があった。参加費1500円で、ここでは4回目。皆勤の人もいて定員6人はすぐ埋まる。つぼや仏具など3点を持ち込んだのは、昨年10月にギャラリー「クアドリヴィウム・オスティウム」(神奈川県鎌倉市浄明寺5丁目)をオープンした黒田幸代さん(55)だ。

 白手袋をつけ、まず予備知識なしで見て触って感じた通りを発言してもらう。不思議な形のつぼを前におしゃべりが出尽くすと、黒田さんが「10~12世紀に中国北部で建国した遊牧民族のもの」と種明かし。企業博物館の収集品を購入し、花器に使っているという。「うちに来てから色が少し変わった」と聞き、「使うんだ」とみんなびっくり。

 最後に登場したのはゆがんだ形状の茶わん。桃山時代の黒織部の陶片を後年に銀で継ぎ合わせた「呼継ぎ」と紹介された。最初のほこり臭さが使い続けるうちに消えたという説明に、「使うことで茶わんが生き返るなんて。美術品であり道具でもあるんですね」と感嘆の声があがった。

 黒田さんが、自宅1階にラテン語で「十字路の入り口」という名のギャラリーを開いたのは、古美術は金持ちの好事家の趣味という先入観を変えたかったから。約20年勤めた百貨店でデザイン部門のセレクトショップ企画に関わり、背景に物語のある品物の力に触れた。長い歴史を語る古美術にひかれるようになり、美術館や博物館に通い、気に入ったものを少しずつ買い集めた。退職後、ボランティアで対話型の美術鑑賞を手伝ったことで、いつかギャラリーを構え、鑑賞会で古美術の魅力を伝えたいと考えてきた。

 千葉から3年前に移り住んだ鎌倉の自宅は、バス停から階段62段と急坂を上った先にある。「美術館のような空間で暮らしたい」。会社員の夫貴彦さん(40)との念願をかなえた家は、内部の仕切りが少なく、とがった屋根が個性的な建物だ。

 その家の1階部分を展示空間にした。寝室と玄関前に愛用のアンティーク家具を並べ、約30点の古美術を展示する完全予約制のギャラリーが誕生した。1日2組限定で、何時間でもゆっくり見てもらう。

 自身の所有品以外にコレクターから預かったものもある。非常に高価な室町時代のこま犬も、数万円程度の小品も、暮らしの空間にさりげなく置かれている。予約時に聞き取った来訪者の好みに合わせ、約60点の手持ちから何を出すか選ぶ作業も楽しいという。「一度の来訪で買う人はいない。気に入れば何度も足を運んで話し込んで、どうしても、となったらお譲りします」というおっとりした商売だ。「先が見えない今だから、誰かの評価ではなく、自分の目を出発点に物事を考えたい。古美術鑑賞がそのきっかけになれば」

 来訪予約などはメール(quadrivium.ostium@gmail.comメールする)で。(織井優佳)

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