第1回五輪反対デモ「お金もらって」NHK番組、誤った字幕はなぜ流れたか

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伊藤宏樹 野城千穂 西田理人
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 〈五輪反対デモに参加しているという男性〉

 〈実はお金をもらって動員されていると打ち明けた〉

 昨年末のNHKのドキュメンタリーで、ある男性が映った場面にこんな字幕が付けられた。だが男性はこのような話はしておらず、裏付け取材も皆無だった。NHKは「誤った内容の字幕」だったと謝罪し、放送倫理・番組向上機構BPO)も放送倫理違反の疑いがあるとして審議に入った。なぜ放送に至ったのか、事後の対応は適切だったのか。その経緯からは、重い責任を担う公共放送が自ら信頼を損ない、誤った情報を拡散した罪深さが見えてくる。

 番組は昨年12月26日放送のBS1スペシャル「河瀬直美が見つめた東京五輪」。映画監督の河瀬さんが総監督を務める東京五輪の公式記録映画の制作に密着した。コロナ禍での開催や観客の有無を巡って揺れる大会組織委員会や国際オリンピック委員会の役員、厳戒態勢の中での聖火リレー、市民の反応にカメラを向ける河瀬さんたちを、NHKのディレクターらが同行取材。映画づくりを巡って葛藤する姿や、五輪下の日本社会を1時間39分にわたって描いた。

 NHKによると、番組は大阪拠点放送局が制作した。取材したディレクターは、大阪局所属でスポーツ番組の経験が長い30代の中堅職員。2020年に河瀬さんのインタビューを担当した際に密着取材を依頼し、取材を進めることになったという。

 中には組織委の森喜朗会長(当時)が女性蔑視発言で辞任し、後任の橋本聖子会長が就いたあとの非公開の議論の様子も。河瀬さんのチームが撮影した映像を借りる形で、五輪の裏側を生々しく映し出す場面も多い。

 その中で問題になったのが、河瀬さんの依頼で記録映画のための取材をしていた映画監督の島田角栄さんが、ある男性に話を聞く場面だ。缶ビールを手にTシャツ姿で顔にぼかしがかかった男性を、島田さんが撮っている。そこに〈五輪反対デモに参加しているという男性〉〈実はお金をもらって動員されていると打ち明けた〉という字幕が表示された。

 だが、そんな事実はなかった。

 NHKによる調査報告書を中心に、これが放送されるまでの事実経過を再現する。

字幕の罪 問われる公共放送NHK

NHKのドキュメンタリー番組で放送された誤った字幕。なぜ誤ったまま放送されたのか。社会にどんな波紋を広げたのか。公共放送としてのあり方が問われる問題を検証する連載の1回目です。

カメラ回さず、メモも取らず「補足取材」

 五輪開会式があった昨年7月…

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