避難指示エリア見直しへ トンガ津波で鈍かった避難行動

福岡龍一郎
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 南太平洋・トンガ諸島で1月に起きた大規模噴火による遠地津波では、宮城県内で約8万人超に避難指示が出されたものの、住民の反応は鈍かった。これを反省に、避難指示のあり方を見直す自治体が出てきた。東日本大震災から11年が近づく今も、災害への備えに模索が続く。

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 気象庁が1月16日未明に津波注意報を発令したことをうけ、沿岸15市町のうち南三陸町を除く14市町が相次いで避難指示を出した。

 塩釜市は市内全域に避難指示を出したため、対象人数は県内最多の約5万3千人に。だが、市が開設した避難所を利用したのはわずか46人だった。

 市の地域防災計画では、津波注意報などが出た場合の避難指示の範囲を事前に決めておらず、一律で市内全域に出す運用になっていたという。このため、海岸から離れた内陸の住民にも避難指示が出ることになった。

 市の担当者は「海に近づかないでという呼びかけの意図があった」と釈明するものの、「あまりにも広い地域に避難指示を出すとメッセージが薄れてしまうのでは」と議論になったと明かし、同16日に運用を変えた。津波注意報の場合は、東日本大震災で浸水した地域の約1万6千人を想定している。警報以上であれば、従来通り市全域に出すという。

 市の地域防災計画にのっとって震災時の浸水エリア約1万8千人に避難指示を出した多賀城市は、津波注意報の際の対象エリアを狭めようと検討している。

 今回は「注意を呼びかける意味合いで最大級の被害が想定される地域に指示を出した」と市の担当者は説明するが、実際に避難所を利用したのは60人。

 隣接する仙台市は、釣り人や漁業関係者などへの呼びかけを想定して海岸線や河口付近にのみ避難指示を出し、対象人数は0人だった。こうしたことを踏まえ、「範囲が広すぎると、『どうせ津波が来ないから』とオオカミ少年のようになってしまう」との懸念が強まったという。今後、津波注意報の時の避難指示は海岸線付近などに限り、対象人数が0人になることもあるとする。

 県内では、2016年11月の福島県沖地震で各自治体の避難指示などがバラバラだったため、県は翌17年にガイドラインを改定。注意報での避難指示の対象は、「防潮堤より海側の地域」または「防潮堤がないため1メートルの津波で浸水が想定される地域」とするよう各市町に求めている。

 県は今春にも、最大級の津波を想定した浸水想定区域を公表予定だ。県の担当者は「満潮時に最大級の津波が到来したときなど、東日本大震災以上の津波を想定した避難計画の変更が必要になる」とみている。

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 沿岸14市町の避難指示は計8万人超に出されたが、避難所の利用者はピーク時で177人にとどまった。なぜ反応が鈍かったのか。

 亘理町荒浜地区で妻と暮らす桜井幸次さん(72)は当日、テレビで「70センチの潮位上昇」という報道を見て、自宅寝室で夜を明かすと決めた。

 震災後に再建した自宅は海岸から約1・5キロ。避難指示の対象だったが、沿岸に高さ7・2メートルの防潮堤が整備された「安心感」があった。「1メートル程度の津波を防げなかったら何のための防潮堤なの。近所でも逃げた人は全然いなかったよ」

 山元町で3人の子どもを育てる主婦(36)は「寝ている子どもと一緒に避難所に行くのは大変。家の2階に移ってテレビを注意して見て過ごした」。

 東北大学災害科学国際研究所の佐藤翔輔准教授(災害情報学)は「深夜だったことに加え、揺れがなかった。地震イコール津波というこれまでの経験が生きなかった」と避難が低調だった理由を分析する。

 ただ、「たとえ大丈夫と思っても避難を始めてほしかった」と呼びかける。

 一方、自治体の避難指示のあり方について、東洋大学の及川康教授(災害社会工学)は「『避難指示は完璧ではない』と正直に伝えることが初めの一歩だ」という。「空振り」が今後も多発することを前提に、「避難指示や防災計画を自分ごととして捉えてもらうため、住民との日ごろの情報共有やコミュニケーションが重要になる」と話す。(福岡龍一郎)