第3回「独立王国」に建つ家賃1千円の高層マンション 習近平の政敵の遺産

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重慶=冨名腰隆
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 昨年12月上旬、重慶市内に入った。2016年から中国に赴任している私にとって3年ぶりの訪問だったが、中心部の高層ビル群はさらに上に伸びた感覚を抱いた。

 重慶は中国西南部に位置し、長江と嘉陵江が合流する地点として古くから水上交通が栄えた。その玄関口となる朝天門埠頭(ふとう)には、2019年に完成したシンガポールの名門・ラッフルズホテルの複合ビルがそびえ立っていた。

 中国成立後、重慶は長らく四川省の一部だったが1997年に北京、上海、天津に続く4番目の政府直轄市に格上げされた。長江沿岸の開発に力を入れた当時の国家主席江沢民が旗を振った。

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中国で格差が広がる中、習近平国家主席は皆が豊かになる「共同富裕」を宣言しました。毛沢東が唱え、挫折したこの理念を再び掲げた真意とは。中国はどこへ向かうのか。秋の共産党大会に向けて随時連載します。

 一つの「市」であるが、面積は北海道より広く、約3200万人の市民が暮らす。域内総生産(GDP)は約2兆8千億元(約50兆円)で、全国5位の経済規模を誇る。

 2007年にこの街のトップである重慶市共産党委書記に就いたのが、薄熙来だった。薄は当時国家副主席だった習近平(シーチンピン)より4歳年上だが、2人はともに党幹部を親に持つ「紅二代」として、長年ライバル関係にあった。

 薄は大連市長や商務相を歴任。党内序列も上位25人の政治局員まで昇格していたが、中央の要職を望んでいた薄にとって重慶のポストは不満の残る人事だったとされる。

 薄はこの地で指導部入りをかけ、実績づくりにいそしんだ。中低所得層向けの安価な住宅供給などを柱とした「共同富裕」もその一つだった。

 各種の権力集中が進み、重慶はいつしか薄の独立王国と化した。その中で、党史に残る大スキャンダルが起きる。妻の谷開来が英国人事業家ニール・ヘイウッドを毒殺した事件だ。

 私は重慶市郊外にある、ヘイウッドの殺害現場となったリゾートホテルがある場所を訪ねた。急な坂道を上った高台に立つホテルは2年前に閉館され、解体工事の最中だった。だがヘイウッドが宿泊したとされるコテージ部分のみがセミナーハウスとして利用されていた。

失脚後、忘れられてゆく殺人事件

 世界を驚かせた事件は、薄や谷の公判を通じて概要が明らかになっている。薄の判決文などから、簡単に振り返ってみたい。

 ヘイウッドは、薄夫妻の一人…

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