「プーチンの実像」から7年、再び起きた混乱 取材記者が振り返る

ウクライナ情勢

朝日新聞論説委員・駒木明義〈前モスクワ支局長〉
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 ロシアのプーチン大統領が、隣国ウクライナへの全面攻撃に踏み切った。しかし、プーチン氏がウクライナの領土を踏みにじったのはこれが初めてのことではない。2014年2月から3月にかけて、クリミア半島を占領したのだ。くしくも今回と同じ、冬季五輪パラリンピックにかけてというタイミングだった。

 クリミア占領は、今回の事態と密接につながっている。プーチン氏はクリミア占領と機を同じくして、ウクライナ東部の武装勢力を支援し、ウクライナ政府の支配が及ばない地域を作り出した。それが、今回の侵攻を正当化する口実として使われた。

 ウクライナ側からみれば、8年にわたるロシアとの戦いの末に、今の事態があるといえる。

 連載「プーチンの実像」は、ロシアによるクリミア占領を受けて、「プーチン氏とは何者か」という疑問に迫ろうとした企画だ。取材はモスクワ支局長の私と、吉田美智子ブリュッセル支局長、梅原季哉ヨーロッパ総局長の3人が手分けしてあたった。

 当時、自らに課した取材のルールが一つある。それは「プーチン氏に直接接したことがある人へのインタビューを重ねて、人物像を描こう」ということだった。

 誰でもネットを通じて世界中の情報を瞬時に入手できる現代にあって、特派員の役割とは何だろうか。それは、現地に記者がいないとできない、ルポとインタビューに集約されるのではないか。そんなことも当時考えたことを覚えている。

 取材地はロシア国内だけでなく、ワシントン、ロンドン、パリ、テルアビブ、東京など、世界各地に及んだ。取材の結果は、15年3月から5月にかけて、33回の連載で読者に紹介した。

 今回、この連載を再構成して、朝日新聞デジタルの読者のみなさんにお届けすることになった。

 読み返すと、今の状況を予言しているような場面もある。プーチン政権初期に大統領顧問を務めたイラリオノフ氏は「侵略は誰かに止められるまで続くことは、歴史が示している。ナチスドイツも、あなたには悪いが、かつての日本もそうだった」と述べて「プーチンはさらに先に進む」と断言していた。

 北大西洋条約機構(NATO)への敵意や、国家が崩壊することに対する病的なまでの恐怖感などの源泉もうかがい知ることができる。

 一方で、プーチン氏の思考様式や人間性を理解することを目指したために、今の目で見ると甘すぎると感じられる記述があるかもしれない。その点は、率直に批判を仰ぎたいと思う。

 20年の憲法改正で、プーチン氏は36年まで大統領を務めることが可能になった。プーチン氏を理解する必要性はますます高まっている。

 なお、この連載は大幅に加筆した上で、2019年に朝日文庫から『プーチンの実像 孤高の「皇帝」の知られざる真実』として出版されている。手にとっていただければ、幸いだ。(朝日新聞論説委員・駒木明義〈前モスクワ支局長〉)