宇宙に行ける時代、中川翔子さん「夢は無限」 朝日宇宙フォーラム

構成・小川詩織
【動画】有人宇宙活動について考えるシンポジウム「朝日宇宙フォーラム」が開催された
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 将来の月探査や宇宙での健康管理などを語り合う「朝日宇宙フォーラム2022」(主催・朝日新聞社、後援・宇宙航空研究開発機構〈JAXA〉、協賛・ヤクルト本社、協力・ANAホールディングス、BASE Q)が1月、東京都千代田区で開かれた。油井亀美也飛行士が「宇宙開発と人類の未来」をテーマに講演したほか、13年ぶりに始まったJAXAの飛行士募集などを語り合った。

油井飛行士 「ISSはホワイトな職場」

 私は国際宇宙ステーション(ISS)で142日間滞在しました。飛行士はテレビで見るとぐるぐる回ったり、食事をしたりと楽しそうですが、実は分刻みのスケジュールで朝から晩まで仕事をしています。ただし、仕事は約8時間。地上のお医者さんが私たちの健康状態を管理していて、残業をする時は許可を得ないといけない。ホワイトなすばらしい職場です。

 宇宙は無重力ですから、少ない力で移動できてしまいます。快適で楽ですが、そのままでは筋肉は地上の2倍、骨は10倍の速さで弱くなっていくことが分かっています。それを防ぐため、毎日2時間の運動が必須でした。

 地上にいると、私たちの血液や体液は重力で足のほうへ引かれますが、宇宙ではそれがなくなり、体液が体に均等に行き渡るようになります。その結果、地上で177センチだった私の身長は、宇宙で測ると夢の180センチ超えになりました。体重もちょっと減ります。ウエストがすごく細くて、足も細くなっていた。スタイルがむちゃくちゃ良くなってびっくりしました。

 昨年、実業家の前沢友作さんがソユーズ宇宙船バイコヌール宇宙基地から飛び立ちましたが、私も同じ場所から宇宙へ飛び立ちました。ロシアの宇宙船なので当然、会話はロシア語です。宇宙ステーションに着くまでは6時間。米国に行くよりも短い時間でISSに着いてしまいます。

 ISSでは毎日、実験をしていました。高品質たんぱく結晶の実験は、地上で役立つ薬を作る実験です。植物がどう重力を感じているのかという実験もしていました。日本の実験は非常に進んでいると思います。

 私のミッションのハイライトは、日本の補給船「こうのとり」をロボットアームでつかまえることでした。その前に米国やロシアの補給船の失敗が続き、ISSは物不足になっていましたが、日本の補給船がしっかりと物資を届けてくれたのです。よく子供たちから「ロボットアームの操作とクレーンゲームとどちらが難しいですか」と言われますが、私はたくさん訓練しているので、ロボットアームでつかまえるほうが楽だと思います。

宇宙にいた142日はあっという間

 142日はあっという間に過ぎ、帰る前の会見で「帰りたくないです」と言ったのを妻が聞いていて、後で「帰ってきなさい」ととても怒られました。帰ってくる時は本当に寂しかったです。でも、宇宙から富士山を見た時は日本が恋しくなって帰りたくなりましたね。やっぱり富士山は、日本人にとって特別かもしれません。

 現在、月を回る軌道に宇宙ステーションをつくって、月面探査をしようという米国主導の「アルテミス計画」があり、日本も参加を表明しています。ここから10年、20年、30年で月に基地ができ、たくさんの人が月から地球を眺める時代がくると思っています。JAXAはその先駆けとなる、月を目指す飛行士を募集しています。我こそは月で活躍してやろうという人に、後輩になっていただけたらと思います。

宇宙開発の歴史や飛行士募集… 登壇者らが討論

 ――昨年は実業家の前沢友作さんがISSを訪問するなど、宇宙旅行が本格化しました。そのISSでは星出彰彦飛行士が船長も務めました。

 川崎 人類の宇宙開発の歴史を振り返ると、約20年ごとに節目があります。1960年に旧ソ連(ロシア)の「ボストーク1号」で飛行士が初めて宇宙に行き、80年代には米国のスペースシャトルが初飛行し、ロシアが宇宙ステーション「ミール」を建設し始めました。ISSの建設は2000年ごろに始まり、20年代には日本人飛行士が月に行こうとしています。その先は火星に向かうという話にもなっています。

 油井 昨年、地質学の訓練を始めました。なぜ地質学の訓練が必要かというと、月に降り立った飛行士が地質学を知らないと、転がっている石から意味のある物を見分けて、持って帰ることができないからです。訓練は結構実践的で、ほかの惑星の写真を見せられて「これを地質学的に説明しなさい」みたいなものもありました。

 ――ISSのほか、月や火星探査となると、長期滞在によって筋力が弱り、地球に帰還した後はリハビリが必要です。今回、そのリハビリを中川さんに体験いただきました。

 中川 やっぱり体幹が重要で、いろんな筋肉を普段から鍛えておかないといけないんだと思いました。宇宙にいきなり行ったら、体力も筋力もかなり奪われると分かったので、体験後、バランス感覚を鍛える器具を買いました。

 油井 宇宙でも運動をしていれば筋力は維持できるのですが、バランス感覚はどんどん衰えてしまいます。私も帰還して宇宙服を脱ごうとした時、頭の重みを完全に忘れていて、前につんのめって頭を地面にぶつけそうになりました。

 川崎 短期間の宇宙旅行であれば、これほどのリハビリは必要ないと思うのですが、「宇宙酔い」という言葉があるように、行って3日間くらいは体調がどんどん変わります。どう対応すればいいのかはわかっているので、私たちの知見を活用していきたいです。

 ――13年ぶりに始まった飛行士の募集では、要件が大幅に緩和されました。例えば、これまでは身長158~190センチの人しか応募できなかったのが、149・5~190・5センチに広がりました。

 中川 実は私、157センチで、これまでの募集では1センチ足りなかったんですが、「これは来た」と。本当に今、書類を書いています。

 川崎 身長の制限は、ロシアの宇宙船の大きさで決まっていたんですが、米国の宇宙船が新しく開発されたことで、緩和できるようになりました。

応募条件は文理、学歴が不問に

 ――学歴も理系の大学を卒業していなければいけませんでしたが、ほとんど不問になりました。

 油井 訓練についていければ、文系でも大丈夫と思います。社会人としてどれだけ理系の考え方を身に付けてきたのかとか、理系の素養を持っている人がターゲットになります。

 川崎 文系の大学だったとか学歴がないとか、そういうところで諦めていた人の中に、本当に飛行士に向いている人がいるかもしれない。油井さんも最初は、自分は資格がないような感じで、受験しながら「落ちた」と毎回言っていたらしいですが、その中で素晴らしい人がいるんです。入り口で制約を設けるのはおかしいということになり、文系や理系、そして学歴も関係なしに募集することになりました。

 ――油井さんの選考はどんな感じでしたか。

 油井 いろんな背景を持った人たちが集まって、試験を受けていくうちに非常に絆が強くなりました。最終試験に残ったファイナリストの10人とは長時間をともに過ごし、最後は「結果はどうでもいいや」と思えるくらいになりました。一生の友達ができたのが一番の思い出です。

 中川 宇宙に行くには覚悟も必要とは思いますが、宇宙は人類にとって最大の夢の一つだと思います。今回の応募条件の緩和は、「夢は誰でも持つ資格があるんだよ」と言ってくれているように思いました。チャンスがある人は応募すべきじゃないかと思います。

 ――どういう人物を求めていますか。

 川崎 まだ人類が行っていない場所に立って、どんな感情を持つのか。感じたことを地球上に持ち帰って、私たちに共有してほしい。これを「発信力」と呼んでいます。その方法は言葉だけでなく、いろいろあるでしょう。中川さんなら漫画や音楽かもしれない。

 中川 見た景色や気持ちを歌にしたいし、ライブもしたいし、油絵で描いてもみたいです。チャンスが広がっている。すごく夢をいただきました。

 油井 目標を成し遂げるのは大変で、努力の継続が重要です。そこで大事なのは「好き」という気持ちです。好きなことは、どんなに大変でも続けることができる。子どもたちには、好きという気持ちを大切にしてほしい。そして、一人でも多くの方が宇宙に興味を持って、飛行士を目指してほしいと願っています。(構成・小川詩織

飛行士の体調維持へ ヤクルトとJAXAが実験

 実業家の前沢友作さんが昨年、2週間ほどISSに滞在したように、多くの人が宇宙へ旅行する時代が近づいている。JAXAの小川志保・きぼう利用センター長と、ヤクルト本社の長南治・中央研究所研究管理センター所長が最新の医学研究について解説した。

 宇宙で長期滞在すると、骨や筋肉が減ったり、尿路結石になったり、免疫機能が低下したりといった問題が出てくる。閉鎖環境でのストレスによる精神心理的な課題、宇宙放射線による被曝(ひばく)といった問題もある。長南さんは「飛行士のミッション遂行のためには、ベストな体調を維持することが必須。地上から直接の医療支援が行えない状況で、体の悪い変化を未然に防ぐことが重要だ」と話す。

 乳酸菌で腸内環境を改善することで、免疫機能を維持できるという地上での研究結果があることから、長南さんらは「宇宙でも乳酸菌が有効ではないか」と考えた。飛行士に乳酸菌を飲んでもらう実験を、2017年からJAXAと共同で始めた。

 現在も、ISSに滞在している飛行士に乳酸菌を飲んでもらい、免疫機能への効果を検証している。小川さんは「宇宙での成果を地上で暮らす皆さんに届けていきたい」と話した。

 なかがわ・しょうこ タレント・歌手。小学生の時に見たヘール・ボップ彗星(すいせい)に感動して宇宙好きに。深海調査船で日本海溝に潜ったことがあり、次は宇宙に行きたいという希望を持つ。自身のユーチューブチャンネル「中川翔子の『ヲ』」は登録者80万人超。

 ゆい・きみや 防衛大学校理工学専攻卒、航空自衛隊に入隊。2008年の募集で飛行士候補に選抜。11年に基礎訓練を終了。15年に国際宇宙ステーションに長期滞在し、日本人で初めて無人補給船「こうのとり」をロボットアームでつかまえた。16年からJAXA宇宙飛行士グループ長。

 かわさき・かずよし 1987年、宇宙開発事業団入社。国際宇宙ステーションの開発や月惑星探査計画などに携わる。2015年に宇宙探査イノベーションハブを立ち上げ、異分野との連携を推進。20年からは事業推進部長として、飛行士募集などを担当。

 ◇パネル討論のコーディネーターは科学医療部の東山正宜次長、司会はフリーアナウンサーの田村あゆちさんが担当しました。