湯村温泉、明治ロマン漂う街に 山梨県など再開発支援
戦国大名の武田信虎や信玄、勝頼も通ったと伝わる甲府市の湯村温泉の再開発構想が動き出した。同温泉旅館協同組合などが新会社「甲府観光開発」を設立し、再開発案を発表した。県、甲府、甲斐両市は、このほど新会社と連携協定を結び、支援に乗り出した。
湯村温泉は昨年、「信玄の湯 湯村温泉」と改名した。約1200年前に開湯したとされ、8カ所の良質な源泉を持つ。作家の井伏鱒二や太宰治らが滞在し、松本清張が小説「波の塔」を執筆した場所としても知られる。
昭和30年代には、約40の旅館が軒を連ねたが、現在は10軒に減った。湯村温泉旅館協同組合理事長で甲府観光開発の笹本健次社長は「40年ほどの間に、閉じたシャッターが並ぶさみしい街並みになってしまった」と嘆く。
甲府観光開発は昨年12月、同組合や昇仙峡観光協会、JTBが出資して設立。先月、公表した再開発案のテーマは、「浴衣でそぞろ歩きができる温泉街」の復活だ。
再開発は、湯村温泉通りの入り口からのメインストリート約800メートルを石畳風に改装。アスファルトの表面を立体的に加工して彩色する。併せて電柱を地中化し、歩道部分も明確にして歩行者の安全化を図る。
街並みは、メインストリート周辺を四つのエリアに分けて整備する。戦前、特に明治期の甲府の街並みをイメージし、木造の擬洋風建築が立ち並ぶ明治ロマンなハイカラな雰囲気にする構想だ。廃業した旅館や飲食店は改修し、新築は現在のデザインを取り入れる。
温泉街を北西から南東に流れる湯川に遊歩道を整備。外湯を復活させ、足湯や飲食店などで温泉街ならではのそぞろ歩きを楽しめるようにする。地場産業のジュエリーや印伝を扱う施設、地酒ショップ、釣り堀なども設ける予定だ。
湯村温泉の背後に控える日本遺産で渓谷美で知られる「昇仙峡」の観光改革構想も併せて公表した。紅葉シーズンなどは渋滞が問題となる。CO2排出を抑えるパークアンドライド方式を推進する構想。奇岩や巨岩が並ぶ渓谷と湯村温泉との間に新たな駐車場を設け、上流にあるロープウェーや、千娥滝などの名所と電気バス(EVバス)で結ぶ構想だ。
笹本社長によると、現在、年間40万人の観光客が80万人に増える試算もあるという。「長年の衰退から復活させて、湯村温泉と昇仙峡がもう一度脚光を浴びて、代表的観光地として復活させたい」
湯村温泉と昇仙峡の再開発については、山梨県や、地元の甲府市、甲斐市も後押しする。長崎幸太郎知事や樋口雄一甲府市長、保坂武甲斐市長が出席して2月15日には、観光振興に関する連携協定を締結した。
笹本社長は「民間だけではできないことがある。例えば湯川の改修は行政の管理下にある。湯村温泉の改革と河川改修をうまく組み合わせて、景観をよくしていくことは、連携しないとできない。これが典型的な協定の意味とお考えいただければ」と語った。
長崎知事は「一緒に知恵を出しながら我々の持てるリソースを最大限投入してめざすところを実現していきたい」と述べた。温泉のにぎわい復活へ、官民が協力した取り組みが始まる。(三ツ木勝巳)
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