第5回志半ばで断たれた料理人の命 ぶれる運転者証言、ドラレコが見破った

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柏樹利弘
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 開店から7年。店が軌道に乗ったお祝いだった。

 2015年8月、名古屋市日本料理店「ながの」の料理長・二久山(にくやま)郁夫は、お盆休みに集まった家族や親類のために、店を貸し切りにしていた。

 身内がみんなで集まるのは久しぶりだった。座敷席で魚料理を食べながら近況を語り合った。

 調理の手を止めて座敷に顔を出した二久山は、長女の亜友里(30)に、はにかんだように笑った。

 「ながの」は東海地方最大の繁華街・錦三地区に店を構えていた。競争が激しい土地柄だが、料理が評判を呼び、常連客も多かった。

 二久山は妻を病気で18年前に亡くした。育ち盛りの子ども3人のお弁当や晩ご飯を作りながら働き続けた。

 不況で一度は店をたたんだ。慣れない工場勤務も経験した。それでも料理の道があきらめられず、ようやく構えた店が「ながの」だった。

 1カ月後の9月20日未明、愛知県警中署。

 本部から中署の交通課に異動していた大橋一仁(60)は、同僚と仮眠をとっていた。

 名古屋市中心部をカバーする中署は、管内に錦三や栄地区などの繁華街を抱える。事件や事故の多い「不夜城」だ。

 事故係の大橋にとっても、呼び出しや泊まりこみは日常茶飯事。合間を見つけては目を閉じて息を抜く毎日だった。

2021年に交通事故で亡くなった人は全国で2636人。悲惨な事故は後を絶ちません。交通事故捜査のベテラン警察官の足跡をたどって、事故捜査の現場と、事故が招く悲劇の実相に、6回の連載で迫ります。

 仮眠室の電話が鳴った。

 交差点を右折しようとした車が、横断歩道で自転車をはねたという。

 「行くぞ」。すぐにとび起きた大橋たちは、大急ぎで着替え、現場に走った。

 はねられたのは帰宅途中の二久山だった。意識不明のまま病院に搬送された。

 車を運転していた岐阜県郡上市の会社員の男(当時24)は、高校時代の友人の結婚式の2次会から3次会へ移動する途中だった。呼気からアルコールが検出された。

 道路交通法違反などの容疑で逮捕し、大橋が取り調べも担当した。

 2畳ほどの取調室で向かいあった。

 当時の状況を聞くと、「1人で車に乗っていた」と説明した。

 だが、何度か同じ質問をぶつけると、答えが微妙にぶれてくる。

 大橋は、何かを隠していると感じた。

被害者をのぞき込む様子が…

 ひっかかりは、同僚が持ってきた映像で解けた。

 当時普及が進み始めていたド…

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