「人口流出の春」地方から考える 気になる大人の二つの押し付け 

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地方季評 田中輝美

 「十五の春」という本に、沖縄の離島の子どもたちが、高校進学のために島を旅立つ様子が描かれている。一般的な地方では「十八の春」だろう。桜が咲く季節、高校を卒業した生徒が家族や友人に見送られる姿を見かける。大学進学のために地元を離れ、その多くが都市へと向かう。春は地方から見ると人口流出の季節と言える。

田中輝美(たなか・てるみ)さん ローカルジャーナリスト。島根県立大学准教授。同県の地元紙記者を経て独立。「関係人口の社会学」「関係人口をつくる」「ローカル鉄道という希望」などの著書があるほか、年刊誌「みんなでつくる中国山地」の編集にも携わる。

 143校と2校――。立地する大学が最も多い東京都と、最も少ない島根・佐賀両県の数字だ。2位の大阪府56校、愛知県52校と続き、少ない方は鳥取県が3校、香川、徳島の両県が4校。専門学校も同様に都市に多い。大学や専門学校など高等教育進学率が8割を超えるなか、地方では県内進学を希望しても受け皿が足りない。こうした構造は、地方の若い世代に移動を強いる。

 だからといって短絡的に都市にある大学・専門学校の合格者数や学校数を減らしたり、進学を目指す生徒を地元に押しとどめたりすることが望ましい解決策だろうか。島根県から大阪の大学に進学した私自身を振り返れば、仏像にハマっていた当時、寺院が多くある関西への進学が実現したことがうれしく、大学生活への期待が膨らむ「十八の春」だった。地域にとっての人口流出と、一人の人生にとっての選択は別物だ。

 一方、「ローカル志向」と言われる若い世代の価値転換も指摘されている。物質的な消費志向よりも、人のつながりや安心感などに重きを置く傾向も見られ、結果として「出て行く場所」だった地方へのまなざしに変化の兆しが生まれているのだ。

 そうした中で、島根では県内進学を後押しする動きがある。多くの高校が2校ある地元大学と連携し、大学生とともに考える授業などを充実させている。受け入れる大学側も、昨春から、定員に県内高校生枠を設ける入試改革を行った。

 ここで注目したいのが、「ローカル・トラック」という考え方だ。大阪大学の吉川徹教授が示した概念で、地方の出身者が地域移動を選択していく進路の流れを指す。

 1990年代の島根県のロー…

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